第30話 板挟み

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 以前俺も着たことがある、野外戦闘用の黒い戦闘服が、一瞬で目の前から消えた。ように、みんなには見えただろう。  他のグループの訓練の様子を見ていたが、なるほど、どうやら相手は相当に手を抜いていたらしい。俺のグループだから、と心置きなく本気で掛かってくる気だ。  それにこの魔術師たちは、今日これが最初の戦闘だった。何グループかを連続して相手をすることになっているため、3試合もすれば疲れがでて隙もできるだろうが、最初の一戦はそうもいかない。 「イリーナ!構わず全力でいけ!敵は本気で来るつもりだ!」 「わかってる!」  最初の衝突はイリーナの方だった。ダガーナイフが剣戟を受けて甲高い音を鳴らす。相手もイリーナと同じようなナイフを手にしている。 「お、中々やるな!スピードは申し分ない」 「なんならもっと速くてもいいのよ?あたしには見えてるから」  獣化できるイリーナには、ただの〈強化〉でスピードアップした相手なんて屁でもないだろう。あとは、実践経験の差がどう出るか、だ。  イリーナに視線をやっている間に、今度はユイトが会敵していた。長剣を手に、器用にも無詠唱で魔術を放って戦っている。  イリーナには出来ない芸当だ。慎重さや器用さでは、ユイトがダントツで上だ。自分の魔力量と戦闘スキルの限界を知っていて、だから深入りしないし冷静に隙を窺うことができる。さすが俺の弟子。  そしてそんな2人を前に、リアはリアで戦っていた。  すっかり修得した弓を使い、イリーナやユイトに魔術攻撃を放とうとする敵に向けて、〈解術〉を乗せた光の矢を放つ。この1年で、弓の技術はもちろん、〈解術〉の精度や威力も飛躍的にあがった。こういうちまちまとした攻撃は、意外と相手を混乱させ苛立たせ、隙を作るのにうってつけだ。  さらに、2人がピンチになりそうな瞬間、絶妙なタイミングで〈空絶〉を発動させ、攻撃が届くのを防いでいる。  3人の連携の高さや習熟度がよくわかる戦闘スタイルだ。放課後の訓練や、実践経験がちゃんと生きている。
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