第30話 板挟み

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「それで、ここで今と同じような景色を見てた。俺の育った村にもこういう白い花がたくさん咲くんだ。それをさ、今はもう死んだ姉弟子とよく集めて花冠をつくったな、とか思いながらな」  話ながら恥ずかしくなってきた。  俺はなんでこんな昔話を、隣国の王太子に話して聞かせているんだ、と思ったから。  でもそれが俺とオーレリアンの関係だったことを思い出し、ゴホンと空咳をして恥ずかしさを誤魔化してから続けた。 「オーレリアンには悪いけど、俺は魔族がみんな悪い奴だとは思ってねぇ。というか、意思の疎通ができる時点で、人間じゃ無いからって全てを攻撃するのは違うと思ってる。それは昔も、今も変わらない。この場所が始まりだった。俺がナターリアの魔術師の頂点を目指すことを決めた場所、そしてシエルと出会った場所がまさにここだった」  町の人の惨たらしい残骸を隣に湖に映る月を見ていた俺に、シエルはなんでもないような感じで話しかけてきた。  それからシエルの理想を知って、俺たちは血の誓いをたてた。  今も、あの時の決断は間違ってないと信じている。 「で、何が言いたいかって言うと、俺たまにここにくるんだ。それであの時俺がした決断や決意を思い出して、自分が間違ってないと確認する。後は懺悔な。あの時救えなかった連中のことを考えて、今なら助けてやれたって……これからは必ず助けるって、俺ならできるなんて恥ずかしい感傷に浸るんだよ」  〈封魔〉のせいで気軽に〈転移〉ができなかったので、ここにくるこも実に一年振りだった。 「あーのさ、オーレリアンが魔族を批判するのもわかるぜ?だって怖いだろ、アイツら。でもシエルがいなかったら、俺は『金獅子の魔術師』なんて恥ずかしい通り名をつけられてもて囃され、特級魔術師になることもなかったかもしれない。シエルのお陰で助けられる人が増えたのも事実だ……まあ、だからあんまり責めないでほしいな、なんて。俺こう見えて結構ガラスのハートだからさ」
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