第31話 偽り

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☆  オーレリアンが魔王城に出入りするようになり、数日が経った頃。  サンクレアへ偵察に行っていたイルダが、くたびれた様子で帰ってきた。  俺はその日、学院の授業を終えて協会の仕事部屋にいた。クソつまらない任務報告書を確認するためだ。  〈転移〉で現れたイルダは、いつもの無表情に険しさを滲ませて、とりあえずと備え付けのポットから熱いコーヒーをカップに注いだ。そして図々しくも来客用の革張りソファにふんぞり帰る。 「なあ、お前最近、ちょっと太々しくないか?」 「レオンハルトのそばにいると、ある程度図太くないとやっていられない。提出書類の期限が間に合わないときや、勝手な不在の言い訳をするときに、いちいち心労を感じていたらそのうち心を病んでしまう」  俺のせいか!そりゃすまない!  とはならない。いや、確かに気苦労をかけてしまっているとは思う。でも一応俺は上司なわけなんだけどなぁ。 「そんで、サンクレアはどうだった?」  自分の不甲斐なさを追求したくはないので、早速と本題を切り出した。 「それなんだが……レオンハルトの言う通りだった」  コーヒーをひと口飲んで、その苦さに顔を顰めたイルダは言う。 「サンクレア王家は、王太子について大きな秘密を抱えている。王宮にロブレヒトという人物が出入りしているのは事実だ。そして一番の謎は、王宮に出入りしている使用人や商人、その他の人物は、王太子が留学していることを知らず、まだ王宮にいると思っている」  やっぱりロブレヒトはサンクレアにいた。それはもう、俺の中では確定事項のようなもので、多分ザルサスもそう考えている。  が、これだけ堂々とナターリアに来ているオーレリアンの動向を、身近な人間が知らないなんてことあるだろうか? 「サンクレア王が秘密裏に留学を許可したんじゃないのか?俺はオーレリアンからそう聞いてる」 「違う」  と、イルダは険しい顔に、さらに暗いものを滲ませた。 「レオンハルト……お前にはあまり良い話じゃないことを先に言っておく」  俺は首を傾げ、イルダの真剣な眼差しに身構えた。  俺にとって良くない話は心たりが沢山ある。  魔族と連んでるとか。親がいないとか。魔族と人間を掛け合わせて作られた存在だとか。一度でも国家反逆罪で追われたとか。  でもそういうのは、誰かが許してくれた。だから今、俺には何にも代え難い居場所がある。 「サンクレアでは、王太子はまだ王宮にいる」 「はぁ?」
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