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「今来たところだ。なんだか楽しそうに酒盛りをしているバカな魔族がいるから探して殺せと言われたんでな」
男の言葉を聞いて、魔族達は考えた。
殺せと言われ、のこのこやって来たという事は、だ。
こいつ、そんなに頭良くないんじゃないかと。
「やっちまぇ!!」
ひとりが豚鼻を鳴らして叫ぶ。
豚鼻達が剣を抜く。剣先に向かう程刃が太く、緩い曲線を描く半月刀だ。明るい月光に照らされ、キラリと輝くそれを振りかぶり、金髪の男を切り刻もうと迫る。
「〈空を裂き、風の刃となれ:風撃〉」
流れるような早口で紡がれた詠唱により湧き起こった風の刃が、迫る豚鼻の魔族たちを吹き飛ばした。
「グハァッ!!」
「ぅぐ、こいつ、魔術師か!?」
まだ青年というには幼い見た目の男だと油断した。
紡がれた詠唱は素っ気ないくせに、威力は想像の何十倍も上だった。
「そりゃ魔族狩りに来てんだから、魔術師だろうよ。んで?抵抗は終わりか?」
金髪の男は、ただそこに座ったまま動かない。それどころか、三人もの魔族を相手に視線すら向ける事はない。
「ま、魔術師だろうと関係ない!仕事の邪魔はさせねぇ!!」
豚鼻達はお互いの顔を見遣り、もう一度駆け出す。今度こそはと、お互いの距離を測り連携をとる。
「俺もこれが仕事なんだ。悪いな」
刹那、金髪の男が片手を挙げた。掌を前に、詠唱する。
「〈業火でもって、焼き払え:炎撃〉」
掌に赤い円環が現れる。それは一瞬で最大の輝きを放ち、轟々と苛烈な炎が噴き出した。
業火に焼かれ、絶体絶命の中豚鼻の魔族達はハッとする。
金の髪に蒼い眼の少年魔術師。こいつは、魔族も恐る『金獅子の魔術師』なのではないか、と。
「ギャア……」
豚鼻の断末魔が途中で掻き消える。炭さえも残らない超高熱の炎が、豚鼻達とその背後の木々まで焼き払った。
金髪の男は、何事もなかったかのように動かない。そこへ、
「あわわわわっ」
と、空から慌てた声が降ってくる。
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