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ついに
収穫してきたジャガイモを、そのままガリっとかじってみるが、少しも美味しくなかった。強烈なえぐみを感じ、ペッと吐き出した。
「くそまずいな。こんなのトイに食べさすわけにいかない」
「ウェ……うん、俺もそう思うよ」
それに確か芽や変色した部分には毒素があるとトカプチが学校で習ったというので、とても人間の血を色濃く引くトイには与えられない。
ここにトカプチを連れてきてから、オレの生きる糧はトカプチの乳で、トカプチの生きる糧はオレの精液だった。ふたりがいれば自給自足出来ていたので、人間の食べ物を調理する必要がなくなっていたのだ。
トイもまだ赤ん坊で、トカプチの乳だけで十分だった。
「ロウ! これを焼いてみようか」
「あぁ、火を起こせるか」
「やってみる」
獣の時は焼いたり煮たりせずに生のままで何でも食べた。だが……トカプチと番になった時に人間の血が濃くなり牙がなくなった。だからオレ自身の嗜好も食べられる物も変化してきている。
トカプチが頑張って火を起こしてくれたのでジャガイモを焼いてみるが、焦げ焦げで美味しそうじゃない。煮た方がましだが、トイにはまだ無理そうだ。
「なんだか、モソモソして食べにくいな」
「本当だ。あぁこんなことならもっと母さんに料理を習っておけばよかったよ」
「そうか」
「たしか『離乳食』っていって、栄養源を母乳やミルクから切り替えるための食品があるって、母さんが話していたよ」
ついに……動く時が来たのだろう。
分かっていたさ。いつまでも親子3人で岩穴に籠って暮らしていくことはできないと。
トイはこの先どんどん大きくなり、成長していくのだから。
そしてトカプチとオレも歳を重ねていく。
オレが望むことは、半獣が安心して暮らせる国を創ることだ。
オレと同じ……狼の半獣のトイ……
小さな獣の耳と尻尾がついた姿を見ていると、無性に切なくなる。
お前には……オレのように悲しい幼少期を過ごして欲しくない。
のびのびと堂々と成長して欲しい。
だからトカプチが必死にトイに兄弟を望む気持ちも、分かる。
「トカプチ……来い」
オレはトカプチを背後からすっぽりと抱きしめる。
そして彼の平らな腹をそっと撫でてやる。
「ここに、オレたちの子がまたやってくるといいな」
「ロウ……うん、きっと近いうちに……そんな予感で満ちている」
彼の項に浮かぶ番の証に、熱い口づけをして囁く。
「一度、『離乳食』とやらを学びにトカプチは、実家に行ってこい。トイを連れて……」
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