おはよう

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おはよう

「……どこぉ?」 「ここだよ、おいで」 「よかったぁ~!」  岩場の奥に作った寝床から、俺達の大切な息子トイが起きて来た。    眠そうに目を擦りながらトコトコ歩く姿が、まだあどけなく可愛い。    俺を見つけると心底嬉しそうに、胸元にパフっと飛び込んでくる。 「ママぁ……」  こう呼ばれるのは、正直……まだ慣れない。  だって俺は男だから。  でもトイを腹を痛めて産み、乳をやって育てているのだから母なのだ。だからトイがおしゃべりが出来るようになった時に、ロウと相談して、そう呼ばせることにした。  俺はロウの胸にもたれ、トイは俺の胸元にくっつく……3人でこんな風にひとつに丸くなって抱き合う時間が好きだ。 「ママぁ……おはよう」 「トイ、おはよう」 「パパぁ……おはよう」 「あぁトイ、おはよう」  俺達の一日は、こんな会話からいつも始まる。  トイは、もうすぐ2歳になろうとしている。  獣人のロウの血を受け継いだせいか、人間の赤ん坊より成長は早い。そのせいかお喋りが上手だ。  どうやら人間の1.5~2倍の速度で成長しているようだ。俺は赤ん坊の成長速度なんて知らないので、こういう時は子育て経験のある母さんの言葉は心強い。  きっと……狼の生存本能で、いつまでも赤ん坊ではいられないのだろう。獣人と人間の血を受け継いだトイにも、そういう獣本来の機能が少し受け継がれているようだ。  それにしても……1年前にこの地を父さんと果敢に訪ねてくれ再会出来て、本当に良かった。俺の居場所が分かったので、あれからは伝書鳩でやりとりをしている。  まだまだ俺は自分の生まれ故郷には戻りたくない。ロウを傷つけた土地でもあるので……足を踏み入れるのが怖かった。本当は年の離れた妹にも会ってみたいが、それは今は叶わない夢だ。   「トイは、また成長したような」  ロウがトイの背中を擦りながら、感慨深く呟いた。  産まれたばかりのトイは耳と尻尾だけが獣人のものだったが、最近ロウみたいなオーロラ色の産毛が背中や胸にうっすら生えて来ていた。 「そうだね。どの位になったら緩やかになるのかな」  母が言うには、純粋な獣ではないので徐々に成長速度も緩やかになり、人間の齢と変わらなくなるだろうとのことだが心配だ。  何より心配なのはロウのことだ。  だってもしロウが俺より2倍の速さで年を重ねてしまったら、それだけ今生での別れが早まるってことだろう。  俺たちはまだ出会って数年だ。これからなんだ。そんなの絶対にイヤだ! 「ロウは……ロウはどうだ?」  俺の心配はロウに伝わる。 「大丈夫だ。トカプチ、君の傍にずっといるよ。それにお前の乳をもらうようになってから、オレの中の獣人の血が薄まり、人に近づいているような気がするんだ。実際オレの顔も手も人に近づいただろう」 「そうかな。そうだといいが。あっ……じゃあもっと飲むか」 「おいおい、オレはさっきたっぷりもらった。今度はトイの番だろう」  そう言いながらも、ロウの目は欲している。  いいよ。お前にならいくらでも……乳がでる限り与えたい!
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