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俺は自ら上衣の袷を左右にずらし、肩を丸出しにした。
「おいで」
するとトイが嬉しそうな顔で、小さな口をアーンっと大きく開いて、右の乳首に吸い付いてくる。
ちゅちゅちゅっ……
小刻みに乳を吸われると……くすぐったくも愛おしい気持ちで満ちてくる。
母性なのだ。きっとこれは──
「ロウも吸えよ」
「いいのか、さっきももらったのに負担でないか」
「お前のを……たっぷりもらったから、っていうか、またソレ言わせる?」
照れ隠しにふざけた調子で言うと、軽くキスされた!
トイのいる前でと思うが、トイは乳を吸うのに夢中だ。
俺の生きる糧はロウの精液だ。
口から直接与えられるのも、躰の内部に出されたものを吸収するのも、どちらでも俺の躰の隅々まで栄養が行き渡るのを感じられる。
「もらうぞ……ありがとう」
ロウがその精悍な顔を綻ばせ、トイの横に顔を近づける。
ロウ……お前、本当にカッコいいな。
こんなカッコいい奴、俺の町にはいなかった。あそこでは……ずっと胸から乳が出る特異体質やオメガ性であることを隠して生きてきた。
誰もが顔見知りのような環境下で、一緒に育って来た幼馴染や同級生の男に秘密を知られるのは恐怖だったし、身近な男に男の俺が抱かれるなんて……絶対にあり得ないと……乏しい性知識の中で思っていた。
そもそも男が男に惚れるなんてありえないと思っていたのに……今なら分かる。
好きだ。愛してるって感情は、教えられるものではない。自分の心で感じるものだ。
俺の心はロウだけに向かっている。
「トイ、美味しいか」
「うん、しゅごくおいちいよぅ」
こういう時のトイは、まだまだ舌足らずだ。
左の乳首をロウの口腔内に含まれて、本当に繊細な動きが出来るようになった舌先で捏ねまわされ吸い上げられると、今は授乳の時間なのに、躰が熱を帯び……感じてしまう。うっかり変な声が出そうになる!
「ロウ、よせ……っ、お前の飲み方はいつもエロすぎ!」
「そうか」
ロウは不思議そうな表情で、胸元から見上げてくる。
水色の水晶のような美しい瞳に、俺が映っている。
その事が嬉しくて、俺はトイとロウを両腕でふわりと抱きしめる。
「あ……あぁ……あっ」
これが岩場で繰り広げられるいつもの日常。
いつもの授乳風景だ。
これが俺の家族だ。
****
「ママぁ。おなかすいた」
「ん?」
「おっぱい、足りなかった?」
「ううん……ちがくて」
最近……少し悩んでいることがある。
少しずつ身体も大きくなったトイには、どうやら俺の乳だけでは足りないようだ。おっぱいも大好きで相変わらず吸い付いてくるが、すぐにお腹を空かせてしまう。
そうなるともう乳はいらないというのだ。
ロウや俺はお互いのモノだけで満たされているが、トイは違うのだな。
「ロウ、どうしたらいいのかな。この子に何を与えればいいのか」
「そうだな。人の子はこの位の時期は何を食べるのか」
「うーん、母さんが言うには乳の次は離乳食だと」
「離乳食? それはなんだ?」
そうか、ロウは知らないよな。
そもそもロウの両親は生粋の狼だったのだから。
「柔らかくした粥とか……野菜を柔らかく潰したものとか。でもここには米も野菜もないよな」
「トカプチ『野菜』とは、トカプチの両親が植えていったジャガイモというあのごつごつした球みたいなのか」
「そう、それも野菜だ。あっ待てよ……そうか! ロウ、ジャガイモを使って何かできるかも!」
俺達の子育ては本当に手探りだ。
ただ乳を飲み合っているだけでは、もう足りないのか。
俺達の世界を、俺達の手で広げる時が来たのか……
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