558人が本棚に入れています
本棚に追加
2章『忍び寄る気配』 どこにいる
「兄貴、ここにいたのか」
「あぁ」
「……俺達の群れは、もう限界だ」
「分かっている」
「何か術を考えてくれ。群れの長として!」
「今考えている。少し待て」
太陽が傾く西の森には、獰猛な狼の群れが森の至る所に点在している。
ここは狼の国だ。
通常ならば、狼は一組の繁殖ペアを中心に家族間で厳格な力関係が成り立っている。群れはほとんどが家族で構成されトップペアの子育てを助ける仕組みなのだ。
だが俺達の群れは、その構成が崩壊していた。
何故なら俺達兄弟の両親が……ロウと名付けられた末の弟がこの世に産まれてすぐに、群れから消えてしまったから。
母の腹から出て来たロウは、完全な狼の姿ではなく半獣だったのだ。
両親は生粋の狼なのに半分人の躰を持っていた。突然変異なのか、それとも先祖に同じような半獣がいたのかは分からない。
顔や手足の先端は狼そのものだが、四肢の途中までと胴体部分が決定的に違った。俺達が忌み嫌う人間の姿をしていたので、兄弟の誕生を待ちわびていた俺達家族は皆、卒倒してしまった。
やがて近隣の群れにも『半獣が生まれ落ちた』という噂は広まり……『不吉だ。災いもとは抹殺せねば狼の国が崩壊する』と。
俺達の群れは皆殺しにあう寸前だった。それを察知した両親が赤ん坊のロウを抱いて逃げたというわけさ。兄弟や親類の中にも、産まれたばかりのすぐにロウを殺してくれと叫ぶものもあった。
ロウを殺して生き延びる道があったのに、両親はロウを殺せなかった。
その後の消息は分からない。たぶん両親はもう死んだ。気配を感じない。だが北の森に若い半獣が出るという噂だけは何度か耳にしたことがある。
もしやロウが生き延びているのか……
俺達から両親を奪った弟には、悪いが憎悪の気持ちしか抱けない。それに北の森は凍った大地で……足を踏み入れるだけで狼の躰も凍ってしまうため、ずっと近づけなかった。
俺は両親が消えた後、残された仲間を支え……長兄として群れを継ごうと頑張ってきたが、それも限界だ。
俺はアルファではなかった。群れの中にアルファがいない。オメガもいない。ベータだけの群れなんてありえない! それに繁殖ペアもおらず……子孫を成せないのだ。
近隣の群れに食いつぶされないように俺がアルファだとずっと偽ってきたがもう限界だ。番えないし……子もなせないのだから。
そこで過るのが本物のアルファはロウだったのでは……ということ。
半獣のロウをこの群れに取り戻しにいくべきか否か、ここ数日悩んでいた。
「最近、北の大地を遠くから偵察してみたが、おかしな光景をみたんだ」
次兄のツウが教えてくれた話が、ずっと耳から離れない。
「青い牧草が茂っていて氷が解けていた。今なら俺達も足を踏み入れることが出来そうだ。つまりロウを探しに行ける」
ロウのことは許せない。だが……どんな風に成長し、今何をしているかを見極める必要があるだろう。
「行くか。行ってみるか」
「あぁそう来なくっちゃ!」
「俺達に災いを持たらす奴だったら、皆ですぐに噛み切ってやろう」
「あぁそうしよう」
あとがき (不要な方はスルーで)
****
ここまでトカプチ続編『Grow』を読んで下さってありがとうございます。
なにやら突然不穏な展開ですが、最高のハッピーエンドを用意しますので、どうかご安心ください。
甘いのも混ぜながら少しロウの背景を追ってみたいと思います。ロウにも成長して欲しいので、展開上切ない部分もあります。
いつもスターやスタンプ。ペコメで応援ありがとうございます。
励みになっております!
最初のコメントを投稿しよう!