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「おや、見てごらんよ」  男が背後に立つロボットに呼びかけた。ロボットは慎重な二本足で、同じ目線にまでしゃがみ込む。鉄の歯車の軋む音が微かに聞こえた。  男はスターチスの茎をそっと手で押しのけた。自分の見つけたものをロボットにも見えるように、身体を少し横にずらす。ロボットはアイセンサで目標にピントを合わせた。  ひときわ背の低い紫の花が、ほかの花に隠れるように咲いている。花弁で雨宿りをする子供の花といった具合だった。 「間引きにあぶれましたか」とロボット。 「違うよ。他とは明らかに形が違う。これはスターチスじゃないんだ、きっと」 「存じております、マスター」  水辺の草花のような細い茎に、紫の薄い花びらをつけていた。花びらが髪だとすると、頭全体は地面に向かって垂れ下がっている。一つの房に小さな花をいくつも咲かせるスターチスとは、似ても似つかない花であった。 「なんだ、知っていたのか。なんで教えてくれなかったんだい?」 「質問をされなかったためです、マスター」  ロボットの言葉に、男は静かに笑った。 「なんの花か、君にわかるかい?」 「はい、マスター。これはカタカゴです」 「ほう」 「おそらく、種の売り買いの際に、一粒だけ紛れ込んだのでしょう。正規の店舗でなく、コミュニティの売買で手に入れた種でしたから」 「君は本当に、なんでも知っているなぁ」 「恐れ入ります」
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