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ロボットは言いながら、スターチスの陰に隠れるカタカゴへ手を伸ばした。男はやんわりと、ロボットの手を押しとどめる。
「いいよ、わざわざ抜き取る必要もない」
「ですが、庭の景観を損ねます」
「せっかく咲いているんだから。こんな光景はめったにないよ」
「庭の景観を損ねることは、マスターにとって不利益なのではありませんか」
男は立ち上がった。ロボットが主人の視界に合わせるため同じように立ち上がると、男はやわらかく笑いかけたまま、手を後ろに組んで帰路をたどる。
「君はなんでもできると思っていたけど、やっぱり、人間にできてAIロボットにできないことがあるのだねぇ」
「恐れながらマスター、どのような思考プロセスでそのような発言をなさるのか、私には理解が追いつきません」
男を隔てた背景に、ピントのぼやけた白い家が映った。男と、彼に仕えるロボットの住居であった。
「マスター。人間に可能でありAIに不可能なこととは、いったいどういったものを指すのでしょうか?」
「君はなんだと思うね」
「私はその答えを持ち合わせておりません。マスターに教えていただく他には」
「では、少しのあいだ考えてみるといい」
それきり、ロボットが同じ質問をしても男が答えることはなかった。ロボットは待ち続けたが、男にとっての『少し』が、ロボットにとってどれだけの期間を指すのか、彼にはわからなかった。
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