2-3

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 無事にテストを終えて大学生活の中で一番長いとされる春休みに突入した。去年までは私もこの休みをまだかまだかと待っていたけれど、今年はまったく待っていなかった。むしろ春休みなんてなくなればいいのにと思っていた。  授業がない分、就活のことを考える時間は増えたし、例のごとくバイトの出勤日数も少ないままだった。そんな息のつまりそうな長い休みが始まってしまった。  春休みに入ってまだ二週間しか経っていないにも関わらず、もう既に煮詰まりそうな状態の私のスマホが突然振動した。そしてそこに表示された名前に息をのむ。 「もしもし」  飯村君からの電話があるとなぜかいつもベッドに正座をしてしまう私は、今日もそこで律儀に姿勢を正してから電話に出た。 「もしもし、急にごめんね。あのさ、今日って暇?」  突然の電話に突然の誘い、受け入れきれない私は堪らず足を崩す。 「ひ、暇です!」 「お、本当?じゃあさ、どこか遊びに行こうよ。だってなんか就活のことで頭いっぱいにならない?」 「なる!もうパンク寸前だった」 「ははっ、よかったパンクする前に声かけて。じゃあ今日は思いっきり遊ぼう」  電話越しの彼が楽しそうに笑う。つられて笑う私が賛同すると、彼は突然かしこまったように「という訳で浅倉さん」と言って一呼吸置いた。 「はい、なんでしょう」 「僕とデートしてください」  投げられたその言葉に一瞬固まってしまった。私は慌てて崩れていた足を戻し、誰に見られている訳でもないのにもう一度正座を作り直す。 「は、はい!よろしくお願いします!」  かしこまった彼につられて自然と敬語になった。すると彼は「俺ら硬すぎ」と吹き出して張り詰めた空気を一蹴してくれた。そんな笑い声を聞いていると私も楽しくなり、気づけばまた足を崩していた。  十四時に迎えに来る彼よりも早く外に出て待っておこうと思い、今日はこの前より早めに準備を進めていく。ハイネックのニットに少し長めのスカートを選び鏡の前に立つと、今回は気合を入れすぎだとは思わなかった。  時間より十五分ほど前に部屋を出て、何気なくエントランスを見ると、壁にもたれかかってスマホと向き合う彼が目に入る。鍵を閉めてから慌てて自分のスマホを確認してみるが、彼からのメッセージはきていない。  もしかすると彼は以前も時間より早く来ていたのかもしれない。頃合いを見てから私に着いたと連絡をすることで、あたかも今着いたかのようにしていたのかもしれない。  実際にそうだったとしても、彼がそれを私に告げることはないのだろう。そう思うと、それを知っていることが無性に嬉しくなり、顔は自然とにやけていった。私の中にいる飯村匠真という人間がこうやってどんどん上書きされていくことが、たまらなく嬉しかった。  準備できたから外に出とくねという私のメッセージはすぐに既読になり、予想通りの返信が届く。 「俺もちょうど今着いたところ」  小さな画面に映し出される電子文字が愛おしくて、私は何度もそれを読み返した。
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