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「お願いします! 早く出して!」
運転手に訴えかける。
「まあ、落ち着いてください。この車はどこにも逃げたりしませんよ」
優しい声で諭されるように言われたが、そうではない。
「違う、違うの……」
「この車は安全ですよ。鍵もついているし」
「違うんです! 安全じゃない!」
怖かった。どうしてこんなに落ち着いた声が出せるのか意味が分からない。
さっきの光景を目の当たりにした私は半狂乱に陥っている。
「私は運転手です。こう見えても職務に誇りをもっていましてね。貴方を安全に送り届けますよ」
「貴方の仕事なんてどうでもいい。いいから出してよ!」
声を荒げてみるが運転手は微笑みを浮かべるだけ。
「はは、そうですよね。それではお代は頂きません。そういう仕事なので」
「何を言って……」
「私が何故こんなに落ち着いているか分かりますか?」
運転手の笑みは深くなるばかり。
「ふふ、お客様のような方を乗せるのは今日が初めてではないですね」
「私はお客様じゃない、ただ逃げたいだけなの」
「さあ、行きましょう」
運転手はエンジンをかける。かけてしまう。
私を乗せたタクシーは闇の中を走るのだろう。
この闇を抜けた時に光は差してくれるのだろうか。
何にしても私はここから一刻も早く逃げ出したかった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。物語を下から上へ一文づつお読みください。
内側の殺人鬼が姿を現します。
「内側の殺人鬼」
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