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近々戦が始まるだろう、と父は言った。
この大陸の三分の二近くを席巻する帝国の若き皇帝は、大陸全土を手中に収めるべく侵攻を進めている。帝国では庶民に対して圧政が敷かれていると言われ、実際国を捨てて難民となる者も多かった。
それに対し、他の国々は連合軍を結成して帝国に対抗しようとしていた。連合軍の中心にいるのは一人の若い女性であるとも言われるが、それがどんな人物なのかはアルスは知らない。恐らく、どこかの国の王女が象徴的なトップとして担ぎ出されているのだろう。
戦の気配の中で、アルスは十八歳になろうとしていた。一人前になると早速、戦に駆り出されるだろう。その為か、戦士の誓いを立てる儀式が前倒しになっている。
だが、この期に及んで、アルスはどんな誓いを立てるかまだ決めていなかった。リュタン家において、自分がどんな戦士になるか誓いを立てるということは、どんな人間として生きるかということでもある。
恐らく、あのエレナの言葉が引っかかっているせいだ。それが自分を迷わせている。……いや、姉のせいにするのは良くない。そう思いつつも、アルスは考えずにはいられなかった。
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