3. アルス

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3. アルス

 アルスと琴音(コトネ)が王都のリュタン邸にたどり着いたのは、すっかり日も落ちた頃だった。アルスを迎えに出た父のドネルは、一緒にいた琴音(コトネ)の姿を見て驚いた表情となった。 「レティナ様! まさかお一人でここまで来られるとは……」 「その名前は捨てました。今の私はただの琴音(コトネ)です。……バダキア王と話がしたいのですが、仲介をお願い出来ますか」 「勿論です。すぐに王宮に使者を送りましょう。今日はもう遅いので、こちらでお休み下さい」 「恐縮ですわ」  琴音(コトネ)は侍女に案内され、客間に入った。それを見届け、父はアルスを振り返った。 「アルス、おまえ、一体どこであの方と知り合ったんだ」 「ここに戻る途中の道で出会ったんです。誰かに命を狙われているようでした。父上、あの方はどういう方なんですか」 「そうか。……あの方の名はレティナ・コトネ・クレシェッド様という。元ハルディナ神殿の神官長であり、帝国に対抗する我々連合軍の要だ。──皇帝アシュ・ヴェグランド二世の異母妹でもある」 「皇帝の⁉」  では、彼女の命を狙っていた兄とは。  父はうなずいた。 「ハルディナ神殿が皇帝に滅ばされてから、あの方は白拍子(シラビョウシ)に身をやつし、大陸中を回って国々を結びつけた。あの方と皇帝の間に何があったのかはわからんが……恐らく、この世で最も皇帝を憎んでいるのはあの方だ」 「アルス様」  そこへ、先程琴音(コトネ)を案内していた侍女が戻って来た。 「琴音(コトネ)様が、アルス様にお話したいことがあるとのことです」 「わかった」  アルスは父に軽く礼をして、琴音(コトネ)の元へ向かった。
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