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「姫様が眠ってしまわれたのは、一ヶ月ほど前。あちらの離れで見つかりました」
開け放たれた障子の先、母屋から一本橋で繋がった先に小さな離れがある。きちんと手入れがされている場所で、人の気配はないものの大切な場所なのだと感じられる。
「その離れに、なぜ彼女はいたのでしょうか?」
「……亡くなられた奥方様を、思っておられたのではないかと」
「奥方を?」
「お体を壊してからは、離れで過ごされておりました。亡くなられたのもそちらで。姫様はよく離れに行かれていたのです。奥方様を感じられると」
話を聞きながら、ヨリは形のよい顎に指で触れた。
これは人ではない者が関与している可能性がある。そして姫はその原因となりえそうな場所を大切にしていた。実際倒れたのもその場所だ。
だが、何故だ。母親がいるならば娘に悪さをするのか? 伊助の話しぶりでは母子の関係は悪くなさそうだ。
「奥方は、姫を嫌っていたりは?」
「まさか! 最後まで案じておりました」
「では、旦那は?」
「ありえません! 旦那様は奥方様を心より愛しておりました。周囲から後妻をと勧められても断り続けています」
「では、何故姫は眠りについたのでしょうね?」
これは、直接触れてみなければ分からないかもしれない。キョウも同情的なのだから、協力は惜しまないだろう。
「分かりました」
「本当か! では、姫様は……」
「分からないということが分かったのです」
「なんだそれは!」
「ですので、今夜はその離れにお泊めいただきたい。怪異の現場に触れれば、何かしら原因が分かるかもしれません」
「ヨリ様!」
キョウは非難めいた声を上げるが、そもそも同情してどうにかしたいという雰囲気を出したのはキョウだ。今更引くつもりはない。
何よりも、知りたいのだ。この事象の裏にある物語を。
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