人を呪わば穴二つ

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数日後、ブルーダイヤモンドが配達された。香世は段ボールの梱包を解き、緩衝材の上に更にビニールで底面に固定された指輪(リング)ケースを眺める。 「随分と厳重なのね」 香世はビニールで固定された指輪ケースを取り出した。高級天鵝絨(ビロォド)素材である。 パカッ 香世は指輪ケースを開けた。彼女の瞳の中に見るも美しいブルーダイヤモンドが映る。 商品画像とは全然違う青い輝きがそこにあった。青く輝くブリリアントカットは彼女の心を魅了する魔力があった。 数千円のシーリングライトの光ですらも激しく表面反射しテーブルの木目の上に青い光の粒が出来るぐらいのシンチレーション。研磨された面から生ずる青い閃光は透明度が高く海神(わだつみ)がおいでになられているような南の海を思わせた。 真っ青な身を持っているはずなのにどことなく白く強いきらめきを感じる。ダイヤモンドの内部に入った光が内部で屈折を経て上部へと反射する、ダイヤモンドそのものが光り輝いて見えるブリリアンシー。その光は青く冷たく輝く太陽を思わせ、手を合わせ膝を折り拝み崇めたくなるほどに神々しいものであった。 これらに加えカット面には虹の輝きが付随していた。ダイヤモンドの内部に入った光が屈折を繰り返し、分解されプリズム効果を起こし様々な色へと変化するディスパーション。蒼穹に輝く虹が光を放つように見えるそれは虹の女神エリスが空を駆け抜ける姿そのものであった。 ああ、このような美しいものを自分の吐息で曇らせるわけにはいかない。香世は壊れ物を扱うような慎重さと優しさで指輪ケースの蓋を閉めた。 香世がブルーダイヤモンドをその目に収めたのはほんの数十秒に過ぎない。この数十秒で人生で一番美しいものを目に焼き付けたような感動を覚えた彼女は目から涙を流していた。 香世は梱包用段ボールの底面に封筒が入っているのを見つけた。入っていたのは領収書と鑑定証と手紙だった。彼女は真っ先に鑑定証がフリマアプリで見た画像と同じものかのチェックを行う。画像と完全一致していることを確認し一安心をする。疑いの気持ちは一片たりともない。 領収書にかかれている額、500万円也。多分だが人生で一番高いものになるだろう。 最後に手紙、美人の字と言うのだろうか教養あふれるような嫋やかな字で購入のお礼と、訪れる不幸にお気をつけ下さいという旨が書かれていた。
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