人を呪わば穴二つ

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なんと、上手く行ってしまった。最後のパーティーで出会った誠実そうな男、大手ゼネコンの課長である保立(ほたて)と三ヶ月の交際を経てゴールイン! しかし、三ヶ月の間にも不幸の波は容赦なく香世に押し寄せる。住んでいたアパートが全焼(現在は保立の家に居候状態)、父方母方の祖父祖母、仲の良かった従兄弟までもが交通事故に遭ってしまう。 まさかここまでとは…… これはもうマイナスプラシーボ効果で片付けていい問題ではない。香世は指輪を手放す決意をした。ゴミの日に捨てようかとも考えたが500万円も出している以上これも憚られる、勿体ないと言う庶民根性がそれをさせないのであった。 売りに出そうと鑑定して貰った宝石店を訪れたのだが、店は閉店。不況状態ともなればよくある話。他の宝石店を巡ってみたのだが「うちで売るよりも海外のオークションに出した方がいい」として買取りを拒否される始末。ならその手続きをして下さいと頼むが、宝石店の方が海外のオークションに出せるコネクションを持っておらずに売りにも出せない。 苦肉の策として質屋に出したのだが、質屋の方がブルーダイヤモンドに関して明るい者がおらずに「これ青いガラスでしょ?」と汚物を見るような目をされて追い出される始末。 最後に辿り着いたのがフリマアプリだった。購入者は不幸になるという説明文と手作りのアルミホイルのレフ板に合わせて白色照明スタンドを当てた物撮りテクを合わせて可能な限り綺麗な画像を添付する。損はしたくないとして500万円で売りに出したのだが、高値のために誰も手を出す者はいない。鑑定証二枚で信用ある商品なのに何故売れないと香世は首を傾げた。 入札はない。何がいけないのだろうか。「不幸になる」と言うのがネックなのだろうか。もうこうなれば見知らぬ誰かが不幸になろうと知ったことじゃない! 香世はある程度の金を得つつ思い切った値段で指輪を売る決意をした。彼女は「購入者は不幸になる」の説明文を消した。そして、一気に100万円にまで値を吊り下げる。 入札があった。入札者は香世と違い自動引落しにはしていない。購入前に多少のやり取りが必要である。しかし、彼女にとってはこんなやりとりすらも煩わしいもの。 住所が郵便局留めで気にはなったが引き受けてくれるなら誰でも神様、香世は気にせずに購入を成立させた。
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