人を呪わば穴二つ

1/9
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

人を呪わば穴二つ

 一人の女性があった。名前は香世(かよ)と言う。彼女は婚活パーティーに参加し、意中の男性を見つけアプローチをした。今はその結果待ちのために自宅アパートのテーブルの上に置かれたスマホとにらめっこをしている。 香世はもうアラサー女子の三十四歳、晩婚化が叫ばれる現代ではあるが、この歳でなかなか結婚が出来ずに焦りに焦っていた。友人の結婚式でもう引き出物を受け取りたくない! 夫婦の顔がプリントされた皿なんて何に使えばいいのよ! ゴミに出すのも憚られるし、フリスビーにもなりやしない! 結婚した友人が妬ましい! 彼女は拗らせ女子と化していた。 スマホが鳴った。きっと今日のパーティーの彼からの返事だわ。香世はこれからもお付き合いを継続、いや、結婚に向けて真剣に前向きにお付き合いが出来ると言う返事を期待していた。だが、現実は残酷であった。 〈すいません。私の価値観や考え方が合わないと感じてしまいました。香世さんが悪いのではなく、私のわがままです。香世さんのような大変素晴らしい女性に私のような駄目野郎には相応しくないと思いました。大変申し訳ありませんがお断りさせていただきます〉 サイレントにお断りを入れる(入れてない)より誠意はあると言えるが…… 私のわがままだけで止めておけば「ああ、そうか。わがままか」で終わる話なのに、自分を(へりくだ)って「私のような駄目野郎には相応しくないと思いました」までつけられると嫌味に感じる。相手ではなく自分に非があるように必死にインターネット上で「婚活 断り方」とでも検索して考えた文なのだろう。色んな文、今回は二個ほどの例文を継ぎ接ぎにしたのだろうこの文からは謝罪の気持ちは感じられない。ただ、その気がなく断っただけという感が見て取れた。香世はこれまでずっとこの類の謝罪文を受け取ってきたために「こういったこと」が手に取るように分かるようになっていた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!