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七月の東京は苦手。暮らし始めて二年になるのに、どうしてもこの暑さが耐えられない。溶ける。以前住んでいた会津若松も暑かったけど、性質が違う。焼け石でジワジワ炙られるようで、ともすると丸焼きになりそうだ。社会人になってから、エアコンのありがたさを痛感している。
今日もまだ午前中だというのに、レースカーテン越しでもわかるほど、太陽が燦々と照りつけている。天気予報は「お出かけ日和」と告げていたけれど、私は冷房をつけて窓を閉めきり、寝室の壁一面を占拠する本棚と対峙していた。
朝食の後からずっと、ベッドが不似合いな四畳半の和室に引き篭もり。棚から本を取り出しては、要・不要の選別を繰り返している。条件は「一年以上読んでいなければ不要」の一点だけ。でも、愛着のあった本達に別れを告げるのは、毎回心が痛んだ。
足元には段ボール箱が二つあり、それぞれ〈残留組〉〈降格組〉と名付けてある――名付け親は隣の居間でゲームをしている真司(シンジ)だ。不要と判断された本は〈降格組〉に入れられ、古書店で売り飛ばされることが運命づけられていた。
不要、不要、不要……戦力外通告の数は予想以上に多かった。でも、これらの本を整理して棚を処分すれば、ずっと欲しかった一回り大きなベッドを買えるんだ。辛抱しよう。
不要、不要、不要……機械的な作業を続けて頭がぼうっとしてきた頃だ。
視界に全面花柄の派手なハードカバーが飛び込んできてハッとした。
作家・西山実里(ニシヤマ ミノリ)の〈夏の花束〉――十代最後の夏に買った恋愛小説だ。
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