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既に〈降格組〉には、かつての愛読本達が二十冊以上は入っている。ほとんどは恋愛小説か、就活中、何かに急かされるように買った自己啓発本だ。
一方で〈残留組〉に入っているのは、たったの七冊――大学で学んだコンピュータ理工学の専門書が五冊と、仕事でよく参照するプログラミング関連書籍の最新刊、それからお気に入りのファッション雑誌。
空になった棚はまだ一つだけ。これから先の作業の長さを思うと気が遠くなる。私は疲れた体をベッドの上に投げ出して、しばらく大の字になったまま、舞い落ちてくる埃が日光を受けキラキラ輝く様子を見つめていた。
ん?美味しそうなニオイ……
コーヒーだ。引き戸の隙間から漂っている。
「充希(ミツキ)、もうニ時間もやってるよ。休憩したら?」
真司が戸を開けて顔を出した。ボサボサ頭、瓶底眼鏡で無精髭、朝起きたままの格好だ。
「また着替えないでゲームやってたでしょ」
ベッドに転がったまま真司を睨むと、彼は「まあまあ」と誤魔化して居間に戻っていった。
提案への返事を考えているうちに、寝室が芳醇な香りで満たされてきた。答えは考えるまでもなかった。
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