第1話

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2  居間の卓袱台の上には、大きさも色も違うマグカップが二つ。この暑い時期に、ホットコーヒー――彼の気遣いは、いつもどこかずれているけれど、時間が経てばみんな慣れていくし、今回だって労いの気持ちは十分ありがたい。 「いただきます」  私はカーペットの上の薄い座布団に腰を下ろした。カップにフゥと息を吹きかけて、中身を冷ましながら、一口。 「美味しい!」  思わず笑みがこぼれた。  コーヒーの味は真司によって調整済み。(彼はミルクを二つ、私は砂糖もミルクも一つずつ入れる)最高の味だ。頭のモヤモヤが一気に吹き飛んだ。  真夏のホットコーヒーも、冷房が効いているなら悪くない。  私がほっと一息ついて胸をなでおろしていると、真司はテレビのチャンネルを情報番組に切り替えた。直前にはシューティングゲームらしき中断画面が映し出されていたのに、彼には何の躊躇も無かった。 「ゲーム、いいの?」 「うん。どうせ記録更新できないし」  私にはゲームのことはよく分からないけれど、彼のこういう潔さは、一緒に時間を過ごす上ではとても助かる。  彼と出会ってはや五年。多少の意見の違いはあっても、大喧嘩をしたことは無い。彼の意見はだいたい理にかなっているし、私の意見は、彼に採用されるか、論破されるかのどちらか。口先では彼に勝てないことを知っているから、今では程よい距離感で快適に過ごしている。  なんとなく眺め始めた情報番組では、芸能人の生い立ちを掘り下げて、ゆかりある土地や人物を取材していた。映像を見ながらあれやこれやと雑談していると、真司が好きそうなアメコミヒーロー映画の宣伝が流れた。
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