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お手紙
その日から令嬢とは上手くやれている。
お互いを愛すことは出来ないが、同じ境遇のものとして、良い話し相手になれた。
「それではあなたは、まだ恋人にもなれていないのですか?」
「お恥ずかしい話ですが、最初は体の関係で始まったんです。でも、彼女は僕を『僕』として見てくれた。だから……」
俺が口をこもらせていると、令嬢はふふ、と笑った。
「始まりは不純でも、本物の愛なのでしょうね。もう会えないとお思いなら、いっそお手紙など書いてはどうでしょう」
「手紙?」
「はい。私も、月に二度ほど、お父さんに秘密で彼と手紙のやり取りをしています。顔が見えないからこそ、書ける思いもあるのではないでしょうか」
「……そうですね」
だが俺は、彼女の住所を知らない。
知っているのはメールアドレスだけ。
「それって、メールでもいいんでしょうか…」
「気持ちが伝われば何でもいいと思いますよ」
「……わかりました。決心出来たら、メールしてみようと思います」
家の自室にこもり、携帯を開く。
履歴の中に彼女の名前を見つけ、それだけで胸がときめく。
よし、と気合いをいれて、俺は一文字一文字大切に打ち始める。
慎重に言葉を選んで、愛が伝わるように。
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