お手紙

1/7

22人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ

お手紙

その日から令嬢とは上手くやれている。 お互いを愛すことは出来ないが、同じ境遇のものとして、良い話し相手になれた。 「それではあなたは、まだ恋人にもなれていないのですか?」 「お恥ずかしい話ですが、最初は体の関係で始まったんです。でも、彼女は僕を『僕』として見てくれた。だから……」 俺が口をこもらせていると、令嬢はふふ、と笑った。 「始まりは不純でも、本物の愛なのでしょうね。もう会えないとお思いなら、いっそお手紙など書いてはどうでしょう」 「手紙?」 「はい。私も、月に二度ほど、お父さんに秘密で彼と手紙のやり取りをしています。顔が見えないからこそ、書ける思いもあるのではないでしょうか」 「……そうですね」 だが俺は、彼女の住所を知らない。 知っているのはメールアドレスだけ。 「それって、メールでもいいんでしょうか…」 「気持ちが伝われば何でもいいと思いますよ」 「……わかりました。決心出来たら、メールしてみようと思います」 家の自室にこもり、携帯を開く。 履歴の中に彼女の名前を見つけ、それだけで胸がときめく。 よし、と気合いをいれて、俺は一文字一文字大切に打ち始める。 慎重に言葉を選んで、愛が伝わるように。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加