惹かれた

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惹かれた

小さい頃から、お前は社長になるんだと言われ続けてきた俺。 たまたま人より器用にこなせる俺は、両親から、周りから、期待された。 その期待が、苦しかった。 正式に次期社長になるのが決定した日、俺は酷く疲れていた。 なりたくもない役職と大きな責任を背負って生きていくのは嫌だった。 けれど、この業界ではそんな心構えでいたらすぐに食われてしまう。 余命いくばくのない父のことを考えると、俺には大きすぎるその肩書きを譲り受けることしか出来なかった。 ずっと勉学や政治について学んできた俺には、恋愛経験がなかった。 近付いてくる女はみんな、俺の家の財産目当て。 誘われて行為をしても、その女たちの目にはもはや金しかうつってなかった。 でも、これから大きな立場になると、政略結婚とかするかもしれない。 まともな恋愛はもう出来ないかもしれない。 いつか来るかもしれないそんな日のために、まともな恋愛は諦めたけれど、その代わり、俺は、体の繋がりを求めた。 相手は誰でも良かった。 たまたま公園のブランコで泣いていた女を慰めて誘った。 随分泣いたのか目は真っ赤で腫れていたけど綺麗な女性だった。 こんな綺麗な女性なら、すぐ素敵な相手も出来るだろう。 一夜だけの関係、と自分の中で割り切り、その女性を抱いた。 行為中、違和感を感じた。 俺が今まで感じてきたものがない。 なんだろう、なにが今までの女性と違うんだろう。 終わったあと、女性から『慰めてくれてありがとうございました』と言われた。 誰でも良かった俺は慰めた気にはなってなかったが、女性が感謝を感じたなら有難く受け取ろう。 女性は、彼氏とかいないので、必要になったらいつでも呼んでください、とメールアドレスだけ紙に書いて俺に渡して帰った。 一夜限り、と思っていたけど、もう一度彼女に会いたくて呼び出した。 初めて会った日の泣き腫らした顔じゃない、薄く化粧をした彼女はやはり綺麗だった。 また、体を重ねる。 退室準備をしている間に雑談をしていて分かったことだが、彼女は、俺が大企業の御曹司だと言うことを知らなかったらしい。 違和感の正体はこれだった。 今までの女は、俺の金にしか興味がなかったが、彼女は『俺』に抱かれてくれたのだ。
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