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「やっと...ついた、」
あれから学校を飛び出したのはよかったが、バス停についてすぐ、バスの定期券も置いてきてしまっていたことに気がついた。しかし、戻る気にもなれなかった俺はしょうがなく家まで歩いて帰ってきた。
まだ学生ならば午後の授業を受けている時間帯。当然のことながら住宅街に人の気配はなく、雲行きが怪しくなってきた空がやけに主張されているように感じた。
ポツリポツリと降り始めた雨を避けようと玄関の扉へと向かうが、生憎鍵を持ち合わせていない俺は入ることもできなくこともできず、ため息を吐く。
「...そうだ、ベランダの鍵なら」
しかし、ふと不用心とは思いつつも、いつも鍵が開けられっぱなしのベランダの存在を思い出し、急ぎ足でベランダのある裏手へと回る。
案の定、確かめてみればベランダの鍵はかかっておらず、雨足がひどくならないうちに俺はそこから家の中へと入ることができた。
精神的にも相当まいっているのか、家に入った瞬間からどっと疲れが溢れだした。
今まで見たことのない異常な佐竹の姿が未だに眼にこびりついて離れない。
フラフラとした足取りで階段を上がり、自分の部屋へと向かう。そして部屋の前に着いた時、俺はある物音に気がついた。
しかしすでにドアノブを掴んでいた手は意志に反して扉を開けた。
「...ッ!!」
そうして目にした光景に俺は思わず驚き、立ちすくんでしまった。
部屋の中を満たすのは布擦れの音やギシギシとなるベッドスプリングの音...そして荒い息づかい。
朝脱ぎっぱなしにしていた下着と衣服に顔を擦りつけ、ベッドの上に蹲るその存在は下半身に手を伸ばし小刻みに動かしては水音をたてていた。
だがその行為以上に俺が驚いたのは...
「ユズル...ちゃん、?」
長髪の黒髪。見慣れた女子制服。
そこにいたのは弟の恋人であるユズルだった。
俺の存在に気がついたユズルはゆっくりと上体を上げ、こちらを見るといつものようにニコリと微笑んだ。
「あれ?今日は帰りが早いんですね、」
「お前...」
だが目の前の人物は俺の知っているユズルではなかった。....——— なぜなら、
「あーぁ、せっかく上手くいってたのに...バレちゃったなぁ、」
ヒラヒラトしたスカートを持ち上げ、顔をのぞかせるそれは....
「うそ、だろ...」
赤黒く充血し、反り上がった男性器だった。
「どういう、ことだよ...」
「まぁ、でもここまでもった方だよね。雄汰君にもばれないで過ごせてきたのも」
スッと立ち上がり、笑みを浮かべたままユズルはこちらへと歩み寄ってくる。
それだけに無意識にも俺もユズルの歩調に合わせて後ずさる。しかし元々、覚束ない足取りだった俺は部屋を出てすぐのところでつんのめり、尻もちをついた。
「...っ、」
「そんな逃げないで下さいよ」
そうして俺の足元にやって来たユズルは...
「せっかくですから一緒に楽しみましょう?」
「や、め...」
女のように華奢な体のどこにそんな力があるのだろうか、と思わせるほどの力で俺の右足を掴みズルズルと部屋の中へと引っ張った。
すっかり腰の抜けてしまった体は抵抗も何もできず、せめてもと必死に床に手をしがみつかせればズズッ、と嫌な音が耳に響いた。
——
————
——————
「はっ、あ゛...あ゛、ぅっ...ん゛んっ、」
床に何度もこすれる肩。上がる嬌声。荒い息遣いに、はしたない水音。充満する独特な臭い。
「ぅ、あっ...すご、い...真崎さん、」
俺に覆い被さり、熱く昂った性器で中を掻きまわすのは、女のような容姿をした男。
獣のようなぎらついた瞳で俺を眺め、見つめる。
「あ゛っ!ぅぐ...ぁあ゛あ゛!!」
浅いところを擦っていた昂りが、ぐっ、と力強く奥の方まで挿入される。
内側から内臓を圧迫されるような苦しさに堪えることができず嗚咽が零れた。
しかし、不意に訪れる前立腺への刺激で次には甘い、吐き気のするような自分の声が部屋に響き、ユズルはそれを聞いて余計に中のものを大きくさせた。
当たり前のことながら佐竹とは違う動きに翻弄され、何も考えられなくなっていく。
「好き...好き好き...っ、あっ...ぅ、好き、だよ...真崎さん、」
一心に向けられるその瞳を見ていられず、視線をずらせばユズルの肩に担がれ、力なく揺れる自分の足元が見えた。
背中が反り、浮いた腰を掴み、一心不乱に...狂ったようにユズルは奥まで犯しつくす。
ぐぷぐぷと音を立てられ、中を掻きまわされるたびに自身のものから出る先走りが自らの胸、そして頬にふりかかる。
「ずっと、こうしたかったんだ...数えられないほど、毎日真崎...さんのことを考えて、あっ...頭の中でたくさん...たくさん抱いたんだ、」
早まる律動。ユズルは頬を上気させ、顔を近づけるとそのまま俺の唇に貪りついた。
歯列をなぞられ舌を噛み、そして強く吸う。口内に流れ込んでくるユズルの唾液を反射的に飲み込んでしまい、喉を通っていく。
それに嫌悪を覚えた俺はユズルの胸を押すが、力の入らないそれでは何の意味もなく、縋りつくような形になってしまう。
そのことに気をよくしたユズルは激しく腰を打ちつけながら、角度を変えて口腔を犯してきた。
「ふっ、う゛、う゛んっ、ん゛ん...ぅ、ぁっ、」
その激しさのせいでただでさえ呼吸がままならなかったのに、キスをされ俺は酸欠状態に陥る。
「うあっ、ぁ...っ、イク...イキそう...っ、」
ギリギリまで抜いては腰があたるほど奥まで埋め込まれる大胆な動きになり、その度に先端や陰茎の部分で前立腺を押しつぶされ俺の口からは悲鳴染みた声が上がった。
「あっ...あ゛っ!...ん゛んっ!!」
そしてひときわ深く穿たれた時、爪先まで走る強烈な快感が走り、触ってもいないのに俺は昂りから自らの胸に向かって吐精させた。
「あっ!あ、ぅっ、」
それによって締めつける俺の中からズルリ、と動きが激しすぎて抜け出たユズルの性器が脈打ち、精子を勢いよく飛び散らせた。
「...ふっ、はぁ...はっ、最悪、だ...」
「こんなに気持ち良かったの...初めてだよ。ははっ、すごい...顔まで飛んだんだ、」
胸を上下させ、荒い呼吸を続ける俺を愛しそうにユズルは見つめ、頬に手を伸ばす。
そして自らの白濁を指で掬うと俺の口の中にその指ごと押しこんできた。
その青臭さと、苦みで俺は顔を歪めるがユズルは俺の舌を掴み精子を擦りつけるようにして撫ぜてくる。
「これも...食べ慣れてるでしょ?真崎さんのお弁当には特別にいつもこれを入れてあげてたんだから」
「...ッ!!」
その言葉を聞いて、俺は体の中で何かが込み上げてくるのを感じた。生理的な気持ち悪さが襲ってくる。
目を見開き、信じられない気持ちでユズルを見つめた。
「だって毎日見てるだけじゃ...僕の気持ちを写真とか手紙で伝えるだけじゃ物足りなくなっちゃったんだもん。...ふふっ、真崎さんの中で僕の種が血と肉になってしみ込んでるんだ...あぁ、考えるだけで興奮しちゃいます」
そうして漸く、全てにおいて鈍い俺でもある事実がわかった。
「俺のストーカーはお前だったのか、」
力なく出された言葉。
―あぁ、なんでこうなってしまったんだ。
もっとストーカーのことについて気にしていれば...。佐竹に相談して...————ッ!
そう考えた時、俺は一番忘れてはいけない存在を思い出した。
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