特製調味料

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 — どうし、よう。佐竹にこのことがバレたら。ただでさえ、今日は不穏な雰囲気だったのに...  「...っ」  その時、突然眩しい光が俺を照らした。  「よし!ほら見て...よく撮れてますよ」  「なっ、」  向けられる携帯の画面。写っているのは白濁で汚れた顔や体。仕舞いにはいつ撮られたのか、ハメ撮りの動画まで見せられた。  小さな機械から流れ出る水音、そして自分の喘ぎ声にさすがに俺も顔を赤らめた。  「これで好きな時に真崎さんの喘ぎ声を聞きながらオナニーができるよ」  そうして満足したのか茫然とする俺をおいてユズルは自らの身支度を済ませる。  「すごく名残惜しいけどもうすぐ、雄汰君との待ち合わせの時間だから行きますね」  「っ、雄汰に近づくな...っ!」  「でも、雄汰君すごく僕のこと大好きなんですよ?僕の女装姿にメロメロで。って言ってもこの制服は知り合いに売ってもらったもので、別に僕は女装が趣味なわけじゃないですけどね」  「本当は学ランなんです。だから今度は学ラン姿で会いましょう」そう言い俺の頬にキスをし、ユズルは扉へと歩いていく。  「誰がお前となんか...」  「あれー?会ってくれますよね?じゃないと僕...雄汰君を傷つけちゃいますよ。僕のことが大好きな雄汰君を...」  “雄汰”その名を出された瞬間、俺の口から否定の言葉は言えなくなった。  大切な弟を前に出されれば、何も言えない。言えるはずがない。  「ふふっ。分かってくれればいいんですよ。それじゃあ、真崎さん」  そうしてひらり、とスカートを靡かせてユズルは俺の部屋から出ていった。  1人放置された俺は現実の酷さに脱力し、床に倒れ込んだまま天井を見上げた。  — 今日は、本当ついてない。  実際のところ、ついていないどころの騒ぎではないのだが...  とりあえず、今日あったことは佐竹には秘密にしておかなければいけない。もし、口が滑って言ってしまえば...――  怖くてこの先を考えることができなかった。  それにしても面倒なことが増えてしまった。これからもユズルと会わなければいけないのかと思えば、非常に気が滅入った。  ——  ————  ——————  ———— ...ガチャ、  どれだけ考え込んでいただろうか。不意に聞こえたのは部屋の扉を開ける音だった。  「...ッ!」  その音に驚き、反射的に後ろを振り返る俺の瞳に写った姿は...  「さ、たけ...」  「合い鍵。勝手に作ったの持ってたからそれで入った」  扉の前に立ち、チャリと鍵を鳴らす佐竹は無表情で俺を見下ろしていた。  勝手に合い鍵を作られていた、というのにも驚いたが、それよりも俺は今の現状に焦り、そして恐怖した。背筋を冷たい汗が流れ、ひどい手汗を掻く。  「で、これはどういうこと?」  一歩一歩ゆっくりと俺に近づいてくる佐竹。  乱雑に、持っていた俺の鞄と自分の鞄を放り投げ、目の前にしゃがみ込む。  「この精子は真崎のもの?それとも別の誰かの?」  「こ、これは...ぅあっ、んぅ、」  「ここもすごく、ほぐれてる」  唐突に尻を掴み、佐竹はわり開くと無遠慮に指を突っ込んでくる。  先程までの余韻もあったせいで俺の口からは嬌声が零れ、ハッとした俺は口を噤む。  「そして、これ。これはどうやったら1人でつけられるの?さっきまではなかったよね」  「...ぁ、佐竹...っ、」  続いて穴から指を出した佐竹は俺の首を撫でるように触る。  「熱烈な痕だね。こーんな濃いキスマークなんてつけてさ」  そうしてニコリ、と口角を上げ笑った佐竹。だが、目は冷めたままで笑ってなどいなかった。  俺の心臓はありえないほど速く脈打ち、呼吸が乱れていく。  「真崎は悪い子だなー。...悪い子にはしっかりと躾をしなきゃね」  「ち、違うんだ...っ!これは、」  「俺の家に行こう?そこで全部話を聞くから、」  「え...」  「分かってると思うけど、俺の家に来たら1人で外には出してあげないよ?外に出るときは俺とずっと一緒。じゃないと真崎は今みたいに悪いことしちゃうから」  「そん、な...っ。佐竹、いくらなんでもそれは...」  「五月蠅い。黙って来ないと...————弟のこと、壊しちゃうよ」  「...っ」  聞き覚えのあるセリフに俺は再び言葉を詰まらせた。  なんでこうも続けて弟を引き合いに出されなければ...  しかし、それが俺の唯一の弱みであるということに変わりはなかった。  「真崎...あぁ、やっぱり幸せだな。これから毎日真崎と一緒に過ごすことができる。弟君には悪いけど、真崎を独占するのは俺だから弟君には寂しい生活をしてもらわなきゃ」  チュッと、俺の頬にキスをおとした佐竹は幸せそうに微笑む。    あれから佐竹の住むマンションに連れて行かれ、暴力といっていいほど激しい性行為を強要された。  手はひもできつく縛られ、ベッドにつなげられた。  途中、行為の荒々しさにどんなに喚こうが、抵抗しようが佐竹は躊躇することなく俺を犯しつくす。  痛みと快感で失神した俺を構いもせずに佐竹は犯し続けたせいで、毎回俺はその律動で意識を現実へと引き戻された。  「せめて卒業してからにしようと思ってたけど...あんな姿見たら我慢できなくなっちゃった」  つい先程まで行われていた性行為で体力を消耗し、体はピクリとも動かない。  ベッドの中で佐竹に抱きしめられてはしつこくキスマークをつけられる。 まるで、自分のものだ。と印をつけていくかのように。  「あっ、真崎お腹空いてない?なんか俺持ってくるね」  たいして空いていなかったが、わざわざ断るということも億劫に感じ、短い礼を言うと俺は枕に突っ伏した。  そんな俺の耳にキスをし、佐竹は部屋から出ていった。 今はひもで手を縛られてはいないが、“今のうちに逃げよう”という考えは俺の中に湧かなかった。  ここにいれば弟は普通に生活を送ることができる。監禁されてるわけじゃないから、たまには弟の顔を見るために家に帰ることだって許されている。...もちろん、佐竹も同行して、だが。  それにここにいることによってあのストーカーとも会わなくて済むんだ。  ストーカーにも弟のことについて脅されていたが、そのことも佐竹がどうにかする、と言ってくれた。 佐竹が相手で、あのストーカーもどうなるか。下手をすれば...———— ニュースで話題になるような惨いことをされるかもしれない。    — けど、そんなこと俺には関係ない。  今、俺ができることは...しなければいけないことは、ここで佐竹と暮らし、佐竹の思うままに行動すること。  佐竹は両親とは折り合いが悪く一緒にすごしていないと言っていたが...  「真崎、お待たせ」  そんなことを考えていれば、扉が開けられ軽食を持った佐竹が中に入る。  「あぁ、ありが...————っ!」  佐竹に礼を言おうと目線を上に向けた俺は目を見開き、固まってしまった。  反動で息も詰まり、口をわななかせる。  「今、ちょうど帰ってきたから紹介しようと思って。ほら、これから一緒に住むんだしさ」  目を細め笑む佐竹は隣に立つ人物の肩に手をおく。バチリ、と合う視線。俺の顔には自然と歪んだ笑みが浮かぶ。  「こんにちは。弟の...———— ユズルです。これからよろしくお願いしますね」  そこに立つのは学ラン姿で微笑む見慣れた顔。  俺を精神の限界まで追いつめるには十分の条件がそろい、ついに俺は壊れたように笑った。  「もう無理だ。逃がして...俺に皆と同じ日常をくれよ、」  そしてそこで初めて俺は自分の歪んだ日常を恨んだ。  end.
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