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君の恋人
「いや~、やっぱり俺はミナちゃんみたいな純粋そうな女の子が好きだな」
そう、さも当然のように言い出したのは
僕の恋人である拓だった。
僕が拓の恋人になってまだ少ししか経っていないのにこんなことを言うなんて、本当
拓は無神経だな、と改めて思った。
「なんで、そういうこと僕のすぐ近くで言うかな...」
そんな拓に呆れて、ボソリと誰にも聞こえない様な声音で不満を呟く。
僕はこんなにも君のことを愛しているのに...。あぁ、それともまだまだ僕の君への愛が足りないのかな。
だから拓は僕が近くにいることも気にしないで、そんなことを言うのだろうか...。
どうしてだろう、その疑問は僕の頭から中々消えず、結局クラスに戻り授業が始まってからも僕はずっとそのことばかりを考えていた。
放課後、拓が部活へ行ったので僕は1人寂しく帰り道を歩いていた。
「あ、あの...」
すると声を掛けられ、何だと思い後ろを振り向けばそこには1人立ちすくんでいる女の子がいた。
その時僕はその子の顔を見てあることを思い出した。
「あ、えーと...私、派野君と同じ2年で隣のクラスのミナっていうんだけど、」
あぁ、やっぱり...拓が今朝言ってた女の子だ。
途端僕の気分は底まで下がる。
「...で?」
「その...わ、私、派野君のことが好きで、よかったら付き合って欲しいのっ!」
顔を真っ赤にしてそう言った目の前のミナという女の子。
だけどその時僕にあったのは、疑問だけ。
一体君は何を言っているの?
「僕と?」
「う、うん!私のこと知らないかもしれないけど...」
あぁ、確かに拓が君の話をするまで僕は君のことを知らなかったよ。
と、いうより今朝君の顔を知ったぐらいだ。
黒い綺麗な髪。ショートボブで大きな瞳に小さな身長。感情が表にでやすい純粋そうな子。間近で見てわかったことはそのこと。
拓はこんな感じの子が好みだったのか。
心の中で嫉妬という名の黒い塊が現れる。
「ごめん、僕付き合ってる人がいるから」
「そう、なんだ。...それは残念だな。」そう言いショックだったのかその子はうな垂れ下を向いたまま動かなくなってしまった。
あぁ、面倒くさい。どうしてこんなところで立ち止まるかな。もう、帰ってしまおうか。
「じゃあ、これからは...友達としてよろしくね。よかったらいっぱい話とかしたいな」
小さな声でその子はそう僕に言ってきた。
だけど僕はうん、とは言わない。だって君は拓に良く言われてたんだ。僕はそんな君が大嫌い。
話したくないし話すこともない。
「ごめんね、それは無理だな。話はそれだけ?それなら僕はもう帰るから」
僕がそういうとその子は顔を一度も上げることなく後ろの方へ走り去ってしまった。
走り出す直前のその子の肩は震えていたから、多分泣いていたんだと思う。
まぁ、そんなの僕には全く関係ないけど。
そもそも、拓以外の人間の涙なんてただの体液としか捉えられないし。
もし、目の前で拓が泣いていたら...
「あぁ、ダメダメ。そんなの堪えられない」
拓が泣いている姿を想像しただけで気が狂いそうになる。
僕、好きだ...本当に拓が好き。そんな拓に何かあったら...。僕は身震いしてしまった。
次の日どれくらい僕が拓のことを好きなのかを、わかってほしくて僕はあるサプライズを実行した。
朝拓がくる前に机の中にいれた手紙付きのプレゼント。拓は喜んでくれただろうか。
そろそろ見てくれてる頃だろうと思い、
こっそりと拓のいる教室へと向かう。
— あっ、喜んでくれてる。よかった...
教室の中を覗けば嬉しそうに笑っている、拓の姿を発見し頬が緩むのを感じた。
これで、拓も少しは僕の気持ちがわかったかな。もう昨日みたいに他の女のことなんて言ったりしないだろう。
僕のサプライズをあんなに喜んでくれてるなんて、やっぱり僕と拓は同じ気持ちなんだ。
きっとまたサプライズをすれば拓はもっと僕の気持ちを理解して、もっと好きになってくれるはずだ。
僕たちはまだ恋人になりたてでお互いのことをまだまだ理解し合ってない。
惚れたのは僕の方が先なんだ。
ここはやはり僕が積極的になろう。
「次は何を贈ろうかなぁ」
これからのことを考えると何だか楽しくなり、頬を緩ませながら自分の教室へと戻って行った。
それから数日後。
拓はいつも何か悩んでいるのかイライラしている様子だった。
今では僕からのプレゼントも前みたいに喜んでくれない。
メールを送ってどうかしたのか聞いても拓は何も言ってくれない。
どうしたの拓。何を悩んでいるの?
僕は心配で夜もまともに眠ることができない。大好きな拓が悩んでいるのに僕だけいつも通りに生活する、なんてそんなことできない。
僕でよかったらいつでも悩みを聞いてあげるよ。いや、むしろ聞いてあげたい。
君の悩みを聞いて君の心の荷を軽くしてあげたいんだ...僕を頼って欲しいのに。
「拓...なんでたよ...」
悲痛な想いが口から零れる。
しかし、それはうるさい教室内では泡のように消えてしまう。
...それとも拓は僕を頼らないのではなくて、もしかして心配を掛けまいと敢えて何も言ってこないのだろうか。
もしそうなら、僕は直接...ちゃんと面と向かって真剣に聞かなければ。
「僕に頼って」そういえば拓もきっと...。
僕たちは2人で1つなんだ。拓のためならなんだって頑張る。
ただ拓の笑顔がみたい。今、僕が望むことはそれだけ。
あんな拓はもう見てられないんだ。
次の日の朝。拓と真剣に向かい合おうと思い、僕は拓の家の前で本人が出てくるのを待っていた。
今日こそはちゃんと言うんだ。...ちゃんと。
しばらく待った後、後ろの方でガチャ、と扉が開く音が聞こえた。
「 拓...」
振り向けば視界いっぱいに入る愛しい人。
朝から拓の姿を見れたというだけで僕の心はポカポカと温かくなっていくのがわかった。
スポーツをしていることによって、スッと
締まった細身の体に、キリッとした形の良い目元に眉。
爽やかで格好良くて...僕の恋人は本当完璧だな、と改めて思い、そして惚れなおす。
そんな拓の悩みは一体何なんだろうか。
僕は聞かなければ。僕は拓の恋人なんだから...。
「拓、話しをしよう。ちゃんと話し合おう」
そういいながら拓に近づけば、僕の存在に気づき足を止めた拓。
そんな拓の元へ一歩また一歩と近づく。
なのに、拓は近づく僕に向かって酷いことを言ってきた。
なんで...なんでそんなことをいうの?
最近イライラしてるからって...酷いよ、拓。
——
————
——————
「お前、誰だよ」
拓は僕に向かってそう言った。
そんなこと言わないでよ。僕にむかって、
「何だよお前...もしかして、あのプレゼントとか手紙...メールは...」
あぁ、そうだよ。全部僕の拓への愛を形にしたもの。でも、そんなこと当然の行為だよね。
だって僕は...————
————君の恋人なんだから。
青くなる君に僕はとっておきの笑みを浮かべた。
end.
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