聞かせてほしい、その耳を穿つ声を

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「ねぇねぇ聞いてよ! 今日旦那がさ!」 俺は彼女のこのフレーズが嫌いだ。本人絶対に気付いてないけど。 「聞ーてる聞ーてる。ほんっと旦那さん好きだな衣於吏(いおり)さんは」 俺は皿を洗いながら生返事をする。 「そんなことないって! 普通だよ!」 彼女は台布巾を持ったままむうっと無邪気に口を尖らせた。 30代の半ばだし、さほど若々しくも無いのだが、初めて会った時からどうにも惹かれてしまう。薬指に指輪をしていたにもかかわらず、だ。 家から近いというだけで始めたバイトももう四年、何やっても続かない俺が就職さえ考えているのだから恋とは悲しいものだ。
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