聞かせてほしい、その耳を穿つ声を

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 俺は知っていた。  彼女に子どもがいないことを。  馬鹿でも気付く。帰宅を急いだことも無ければ、流行りの子ども向けアニメも知らない。  そして何よりも、自分と同じ年頃の女性が子どもを連れてくると、俺たちに接客を一任してキッチンに引っ込むんだ。  さすがにやむを得ないときは多少我慢はしているだろうが、嘘がつけない人だから露骨に苦笑いしていることは想像が易しい。 「あー……馬鹿やった……」  雨音で聞こえないのにかこつけて独り言をぼやく。 「?!」  歩道に紙切れみたいなものが落ちていると思ってたら、自転車のタイヤがそれを巻き込んで、俺は滑って転んでしまう。 「いってぇ!」  口の端は(いて)ぇしカバンは吹き飛ばされて泥まみれだし、踏んだり蹴ったりだ。  ……天罰か。
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