聞かせてほしい、その耳を穿つ声を

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「えっ8度6分?!」  雨に濡れて帰った翌日、俺が脇から引き抜いた体温計を見た母親が叫ぶ。 「うるせぇ……頭が割れるだろババァ……」  もうろうとした意識の中で何とか訴えたが、母親の声は余計キンキンと俺の耳をなぶった。 「看病してやってるんでしょう?! クソガキが!」  俺は決して口が良くないが、この親から育てられたからだなと確信する。 「あーもうとにかく黙ってくれよ……」  なけなしの優しさで乗せてもらえたおデコの冷却シートを押さえつけながら、枕元の目覚まし時計を見て青ざめた。 「バイト!」  反射的に飛び起きた俺に、背を向けた母親が言う。 「休むって連絡したわよ」 「何勝手なことしてんだふざけんな!」  フラフラの頭を抱えて怒鳴ると怒鳴り返された。 「そっちがふざけんじゃないわよ! 人にうつしたら迷惑にしかならないでしょう?!」  くやしいがごもっともだ。どの道この体調では使い物にならない。大人しく俺はそのままベッドに身体を沈め、目を閉じた。
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