14人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
閉店ギリギリまでいた最後のお客さんがお会計をして、衣於吏さんが食器を片付ける。俺は外を掃くのに使ったホウキを片付けにバックヤードに戻ってしばらく彼女の様子を観察していたが、見かねて声を掛けた。
「衣於吏さん」
「何?」
「どんだけ皿拭いてんの。とっくに乾いてんだろ」
「え、そんなに拭いてたっけ?」
「削れるくらい拭いてたよ」
同じ部分をふきふきふきふき。別に光らねえよ何のヘンテツもない白い皿なんだから。
「なんかあったろ」
彼女の首が右斜めに下がった。
「……まぁ、ちょっと」
「コーヒー奢ってくれたら聞いてやる」
「何その上から目線!」
勢いよく言い返す割には、こちらを見ていない。
「そー言うならいいけど。どっちでもいい」
じっと返事を待っていると、彼女がダンナに金を半分出してもらったという銀のコーヒーミルの前に立った。
「ホットでいいの?」
「おまかせで」
お決まりの、俺の嫌いな言葉が耳を裂くんだろ。
最初のコメントを投稿しよう!