聞かせてほしい、その耳を穿つ声を

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 閉店ギリギリまでいた最後のお客さんがお会計をして、衣於吏さんが食器を片付ける。俺は外を掃くのに使ったホウキを片付けにバックヤードに戻ってしばらく彼女の様子を観察していたが、見かねて声を掛けた。 「衣於吏さん」 「何?」 「どんだけ皿拭いてんの。とっくに乾いてんだろ」 「え、そんなに拭いてたっけ?」 「削れるくらい拭いてたよ」  同じ部分をふきふきふきふき。別に光らねえよ何のヘンテツもない白い皿なんだから。 「なんかあったろ」  彼女の首が右斜めに下がった。 「……まぁ、ちょっと」 「コーヒー奢ってくれたら聞いてやる」 「何その上から目線!」  勢いよく言い返す割には、こちらを見ていない。 「そー言うならいいけど。どっちでもいい」  じっと返事を待っていると、彼女がダンナに金を半分出してもらったという銀のコーヒーミルの前に立った。 「ホットでいいの?」 「おまかせで」  お決まりの、俺の嫌いな言葉が耳を裂くんだろ。
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