聞かせてほしい、その耳を穿つ声を

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「大っ嫌いって言っちゃったんだよねー……」  彼女のため息は深い。 「それ言ったの初めて?」  そっと聞いてみると、衣於吏さんは小さく自嘲した。 「うん。ケンカはしたことあるけど、こんなこと言ったことない。あの充雄くんの凍り付いた顔がさ、今でもずーっと頭に残っててさ」  「あー……っ」と唸りながら抱えられた頭のてっぺんが目の前に降りてくる。あかぎれている指が、切り揃えられた黒いおかっぱ風の髪が、弱々しい表情を隠している。  とんだ茶番に付き合わせやがって、と俺は内心呆れていた。
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