聞かせてほしい、その耳を穿つ声を

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 意外と花って高いんだな、と思いながら花束を抱える。転んだらパァだ。気持ち歩みも慎重になる。  お馴染みの切り株の断面のような看板が見えて花束を右手で持ち直す。看板は旦那が作ってくれたらしい。普通の会社員なのに器用だ。  左手でドアを開けると「いらっしゃいませー!」といつもの明るい声が届く。お客さんを迎えるつもりで寄ってきた衣於吏さんが目を丸くした。 「あれ? どーしたの都築くん。今日出勤じゃないよ」  そういえば、休みの日に来たことねーな。 「今日は客」  誰もいないのが幸いだった。よしえバァさんがいた日にはドン引かれてしまう。 「衣於吏さん」 「なに?」 「これあげる」 背中に隠していた花束を取り出して、手持ち無沙汰な彼女の手に乗せた。彼女はそれをしげしげ眺めた後、突然火がついたようにはしゃぐ。
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