聞かせてほしい、その耳を穿つ声を

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俺が働いているカフェは基本的には衣於吏さんが朝一人で開店して、忙しくなるお昼どきにバイトが一人か二人シフトに入っている。 雨の日だった。11時、俺は玄関で雨ガッパを畳んでカフェに入る。 「おつかれさまです」 微かな雨音しか聞こえない店内で、彼女はせっせと食器を磨いていた。 「あ、おつかれさま都築(つづき)くん! 今日雨すごいね!」 「そーすね、お客さん来てる?」 「全然だよ、コーヒー3、4杯淹れたかなー」 のんきなものだ。元々趣味思考のひっそりカフェだが、モーニングを作っていないなんて余程ヒマらしい。俺がエプロンの紐を結んでいる間に、遠慮がちにドアのチャイムが鳴る。 「こんにちは」 常連のよしえバァさんの声だ。 「いらっしゃいませー、うわっビチョヌレじゃんか!」 傘を手に持っているから差して来たんだろうが、グレーの髪が雨に濡れて濃い。「あぁ気にしないでいいよ」と言われたが、衣於吏さんに借りてタオルを持ってくる。 「もー風邪引くだろ。こんな日になんで来たの」 「洸麻(こうま)くんの顔見たくてさ」 バァさんは頭にタオルを被せてふわっと微笑んだ。70代くらいなのだが、孫がいないらしい。 「いつでも見れるよ俺の顔なんか」 「ふふっチーズのドリアを一つ」 「はいはい」
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