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背は矢島の方がちょっとだけ高いかな。でもいい勝負。私が矢島の靴を脱がせると、世良君は矢島を背負いながらリビングまで引きずっていき、本当にラグの上に転がした。
「何飲む?」
ダイニングのテーブルに促し、私は世良君に尋ねる。
「何でも」
お酒、強かったよね。彼も。向かい合わせで席に着く。
「単刀直入に聞くけど、凜とどうなの?ノアの怪我で急接近したんでしょ?」
お酒の入ったグラスを世良君の前に置く。
「この前、3人で水族館に行った」
ほぉ、凜から聞いてないけど。
「それで、帰り、俺んち泊った。凜はノアと一緒にベットで寝て、俺はソファーで寝た。それだけ」
「おやおや、世良君にしては慎重じゃない?」
すぐ手を出しそうなのに。今回は恐ろしく草食モード全開?
「2度も振られてるのに。今回振られたら、さすがに心折れる」
思わず吹き出しそうになっちゃった。お酒、飲み下した後でよかったわ。
「まだ、かなり好きなわけだ」
出された水割りを一気飲みする世良君。いつも自信に溢れている彼が、お可愛いこと。
「どうせ、俺のこと、認めないとか言うんだろ」
あれ?もしかして、拗ねモード?
「及川さんが止めとけって言ったら、凜、絶対こっち向いてくれそうにないし」
「味方になって欲しい感じ?」
ちょっと意地悪に聞いてみる。こんな側面もってるんじゃない?
「かなり味方になって欲しい感じ」
この素直モード、何?ちょっと楽しいかも。
「凛さ、何で司法試験、受けたか知ってる?」
ちょっとだけ、世良君に凜の秘密教えてあげようか。
「何だよ、いきなり。。。。もともとなりたかったんじゃないの?弁護士に」
「それもあるし、一生仕事したかったのもあるだろうけど。。。凜のお母さんがなりたかったんだって、弁護士。」
「母親?」
「凛の実家、あの妹中心だったじゃない?なんか凜、ないがしろにされてたっていうか。そもそもが彼女の両親、デキ婚だったらしいのよ。凜が生まれたせいで、お母さん、夢を諦めました系っていうかさ。周りの友達が楽しそうに遊びまくってるのに、なんで私だけ子育て、みたいな。そうゆうわだかまりみたいなのがあったっぽい」
「何だよ、それ」
「まぁ、今となっちゃあ、どうでもいいこと。でもさ、全包囲網的な肯定感と愛情の中で育った記憶が曖昧な凜ちゃんは1日24時間『愛してる』と囁いてくれたジョーイさんのことは、なかなか忘れられないと。なんせ、あんな近くにそっくりなジュニアがいるわけだし」
頭抱えちゃってるよ、世良君。
「この前だって、頬にチューはしたし、ハグしたし。そんな嫌がってなかったと思うし。凜だって、俺、寝たふりしてた時、頬だけど、キスしてくれたし」
ほっぺにチュー?小学生かよ、君たち。
いつもの世良君のイメージじゃないんだけど。ダークキャラの傲慢すぎる自信に溢れた世良先生はどこにいったやら。
「キスって挨拶程度じゃないの?むこうでは。凜もアメリカ生活長かったからね。今日はありがとう的な」
うわっ、分かりやすいくらい落ち込んでるよ。彼もどっちかって言うとSっ気体質なのに。これは、かなり楽しいかも。世良君に新しい水割りを作る。面倒くさいから、ストレートでいいか。今夜のお酒は楽しくなりそうだ。
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