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居酒屋デート
「何か食べたいものある?」
白衣を脱いだ湊馬から声がかかる。
「何でも。というか今回は私に奢らせてください」
ノアは実家に泊めてもらうことにした。明日の保育園の送りもついでにお願いしてしまった。
「とりあえず乾杯」
湊馬が連れて行ってくれたのは、地元のちょっとこじゃれた割烹居酒屋のカウンター。
二人で飲むなんて、いつぶり?
「久しぶりだね、凜と二人で飲むのなんて。今回は役得かな」
「役得って。ノアのお世話係させるなんて。ホント、迷惑かけちゃったよね。湊馬、子供の面倒とか大丈夫だった?」
別れた奥さんって言っていいのか、分からないけど、美羽さんの産んだ子供は一度も抱き上げなかったって矢島君経由で聞いてたし。子供、基本、嫌いそう。いろいろ事情はあったみたいだけど。
「ノアは特別。凜の子供だから」
ビール片手にちょっとだけ微笑む湊馬。
ノアはなぜか湊馬に懐いてる。怪我を治してくれた先生だから?いつも抱っこしてくれるし、遊んでくれるから?
「この前、矢島君を飲みつぶしたんだって?愛理が言ってたよ」
この微妙な空気を変えたくて、違う話題をふってみる。
「あいつ、酒弱いだろう。凜並み。あれで会社の接待とか大丈夫なのか?絡み酒だし、たち悪いわ」
私並みって。私だって、ちゃんと普通の社会人並みには飲めるようになったし。
その後、愛理と二人でしっぽり久しぶりに飲んだんでしょ?
うん?今、私、余計な感情が首をもたげようとしてなかった?
心の中、少し緑色がかってた?
“green with jealousy”
いい大人なんだから、こんな感情くらいコントロール出来る。
「及川さんとこに矢島を送ってったら、危うく引き取ってもらえないところだった」
愛理と矢島君もなんやかんやで続いてるよね。よし、感情の切替、成功。
「その後、すっげぇ及川さんに説教された」
「説教?」
二人っきりで楽しく飲んだんじゃなかったの?
「聞いてるんじゃないの?及川さんから」
愛理は私のせいで湊馬と絶交することになったとは聞いてたけど。その後の連絡は矢島君が仲介してて、それをきっかけに湊馬と矢島君、飲み友達になったっんだよね。私、いろんな人を巻き込んじゃってる?
でも愛理、久しぶりに湊馬とさしで飲めて良かったって言ってた。湊馬の本音も聞けてよかったしって。その本音っていうのは本人から直接聞けと言われたけど。何を話したの?
昔から思ってたけど、愛理と湊馬、相性良さそうだよね、なんとなく似てる。でも、そうなると矢島君が。。。。
「聞いてないの?」
返事をしないでいたら、再度、湊馬が尋ねてくる。
「愛理は自分で聞けって」
「まっ、いいか」
湊馬、相変わらずお酒強いな。結構飲んでるのに、顔色ひとつ変わらない。
「湊馬も愛理もアルコールに強いから。愛理のウチにあったお酒というお酒が全部空になってたって。空き瓶片づけるの、大変だったって矢島君に言われちゃった」
矢島君は空き瓶の片付けがというより、愛理と湊馬が二人だけで飲んでたのが気に入らなかったみたいだったけど。機嫌悪そうだったもん。
「とりあえず、及川さんは俺サイドについてくれることになったから」
『俺サイド?』うん?何の話かな?いつもの口角がキレイに上がる笑顔で私を見つめてくる。
「湊馬サイド?矢島サイドじゃなくて?」
湊馬はちょっとだけ溜息をつきながら、私のあいた左手に軽く触れてくる。
なんだ、この展開?
「今夜は泊まれるんでしょ?」
。。。。。湊馬はズルいと思う。いつもクールな瞳なのに、今日に限っては何だか艶っぽくない?もともと眼力半端ないんだよな。
私は右手にあったアルコールを一気に飲み干してしまった。
「イヤだって言っても連れてくけど」
お酒のせいかな、体中にアルコールがスゴイ勢いで巡っていったような気がする。
湊馬は私の左手の薬指にはまる指輪を優しく撫でる。
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