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イッポン
「まぁ、これはノアの命を守ることにもつながるわけだから」
愛理は私に書類を見せながら、説明する。
「ここに住所と名前、さっさと書いちゃおうか?」
ペンを私に渡そうとする。
「それとこれとは話がさすがに違うんじゃないかと思うんだけど」
私は抗弁を試みる。
「そもそもスチュアートって苗字がいけないのよ」
すかさず、愛理が答える。
それは確かにわかる。だから『高坂姓』に戻そうと書類を整えていたところだったのに。
「まさか、『高坂』に名前、戻そうとか企んでた?それは止めた方がいいんじゃない、あの『凜のモノは私のモノ』お化けがまた出てくるからさ」
これ莉子のこと言ってるよね。お化けって、まだ生きてるよ。長いこと、全然会ってないけど。
私は書類に目をおとす。
どう見ても婚姻届だよね。湊馬の名前は当たり前のように書いてある。証人の名前も記入済。愛理と矢島君の名前。
「飛躍があると思うんだよね」
「だって、世良君のプロポーズ断ったでしょ」
プロポーズなんて、された覚えないし。
「だから、サイン出来ないでしょ。婚姻届だよ、これ」
さすがに無理。
「私、世良サイドにつくことにしたんだよね。その方が将来を考えても、凜と会いやすいし。またアメリカなんか行かれたら、私、アメリカ勤務の転職考えなきゃいけなくなるしね、面倒じゃない?」
「愛理さんがアメリカ行くなら僕もついていきますよ」
ちゃっかり矢島君まで会話に加わってくる。
「矢島の話はしてないっていうの」
あ~あ、矢島君、しょげちゃったじゃない?怒られた大型犬みたいに耳としっぽ垂れちゃってる感じ。
「だから、論点がずれてると思うんだよね」
私なりに再度、抗弁を試みる。
湊馬はノアを連れて、近所のコンビニに行ってしまって、ここにはいない。
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