挨拶に行かなきゃね

2/4
前へ
/134ページ
次へ
凜の気持ちが揺れまくっているのが手に取るようにわかる。 それでも、よく書いたと思う、婚姻届。たとえ、それがノアを守るためだったとしても。何度も左手の薬指にある指輪に触れる凜の姿を見てきた。亡くなっても凜の心を支配して離さない存在。その大きさ。 一生かなわないかもしれないなと思う。 多分、全身全霊で凜を愛した男だろうから。 俺にそこまでの覚悟があるんだろうか? ノアは凜よりずっと俺に近いところにいる。なんで、ここまで懐いてくれるのかわからない時がある。多分、怪我を治してくれた医者だったからなのか。 本当の父親が亡くなっていることも理解しているし、彼の遺したビデオメッセージを観返している時もある。多分、英語が全部聞き取れていないのかもしれない。凜がフォローしているし、ノアのことを弟のように慈しんでいるように思えるジョーイの義理の息子から定期的にビデオコールもある。日本語の方が理解が早いようだけど、凜は積極的に英語で話しかけているし、小学校をどうするか悩みどころかな。 ノアは素直で純粋に可愛いと思う。俺のことを「パパ」と呼ぶ。最初は凜がちょっと嫌がるような空気があったけど、ノアはそれを通してくる。ジョーイのことは「ダディ」と呼んでいる。彼は小さいながらも、いろいろ考えているのかもしれない。 問題は凜なんだけど。いろんな葛藤があるのは理解できるけど。 それでもホントに少しずつだけど、向き合おうとしている気持ちは最近やっと感じるようになった。相変わらず、不器用。 俺がジョーイに勝てるとしたら、凜と過ごしてきた年月の長さとこれからも一緒にいられる時間の長さ。 いい加減、待つことには慣れてきた。 俺でも成長できることがあるんだなと思うよ。
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!

182人が本棚に入れています
本棚に追加