挨拶に行かなきゃね

3/4
前へ
/134ページ
次へ
「新婚生活はどう?」 久しぶりに会った愛理にちょっとだけ意地悪に聞いてみる。 「凜、マジでコロスよ」 愛理、その美しいお顔から毒を吐くのは止めて欲しい。本気で寿命が縮むような気がします。なんやかんやで愛理と矢島君は一緒に暮らし始めた。結婚式は先になりそうだけど。 「凜のせいだし。この年齢で結構な規模の結婚式とかまで、やっちゃうのよ。親なんかパンフレット集めまくりで。矢島は矢島で『ハネムーンどこに行きますか?』なんて呑気なこと言ってくるし」 とはいえ、ちょっと幸せそうじゃない?またキレイさに磨きがかかったよね。 「ノアは世良君?」 愛理もノアのことをいつも気にしてくれる。赤ちゃんの頃から成長みてるから親戚気分ね。 「二人で銭湯に行くって言ってた」 「渋いねぇ。仲いいねぇ」 なんやかんやと湊馬はノアの面倒みがいい。 「それと、スチュアート家、どうした?」 愛理はさり気なく聞いてくる。多分、一番聞きたかった肝だろうに。いろいろ心配させてるよね。 「とりあえず落ち着いた」 懸案の相続問題については、ジョーイの相続分については放棄して、以降、関わらないことで弁護士さんに話をまとめてもらおうとした。ノアはもう世良と養子縁組をしてしまったし。ただ、遺産の一部については、ジョーイのお義父様のたっての希望で、生前に財産の名義を家族などに移せる生前信託を使うことになったらしい。これは最も故人の遺志を反映しやすい相続法として、アメリカでは認識されているらしいけど。もしノアがアメリカで暮らしたい、勉強したいと思った時に使えばいいという判断があったようだ。お義父さんの財産のほんの一部で決着がつき、ようやくお姉さんとお義母さんは納得したらしいけど。どうも、二人はノアの交通事故に関わっていた可能性もあったらしく、今回は引かざるを得なかったのが真実らしい。 お金って怖いよね。ノアにまた何かあったらと思うと生きた心地がしない。 「で、入籍後の凜は世良君とどうなの?」 愛理、突っ込んでくるなぁ。。。。 「どうって?」 「相変わらず、結婚指輪そのままだし」 そうなんだよね。外すのは、やっぱり無理かな。気になるところなんだよね。 「新しいの、買ってもらわないの?」 「そんな話は出てはいるけど」 「世良君も受難が続くね」 愛理はお酒のお替わりを注文する。 「忘れるのは無理だし」 私は右手で左手の薬指にはまったままの指輪に触れる。 「それは彼も百も承知でしょう。ノアもいるし、でも過去は過去。忘れる必要はないけど、今の生活もせめて同じくらい大切に思わないとね」 愛理は真理をついてくる。 愛理のおっしゃる通りなんだけど、割り切れない自分がいるのもまた事実。
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!

182人が本棚に入れています
本棚に追加