188人が本棚に入れています
本棚に追加
再会
病院の待合室。私は苦手だ。得意な人なんていないだろうけど。
「高坂さん、どうぞ」
看護師さんから名前を呼ばれ、壁いっぱいに並ぶ診察室の扉の一つの取っ手を横に引いた。
「お待たせしました。おかけ下さい」
カルテの画面とレントゲンの写真から目を離した白衣を着たドクターと視線が合う。
変わってないかな。。。。
「お母さまの担当の世良です。お母さまの手術についてご説明させて頂きます」
何の世間話もなく、いきなり説明が始まった。
母の大腸がんが再発した。前回、手術をしてもらった病院から紹介してもらったらしい。
世良君が母の担当になった経緯はよくわからないけど、世良君に会うのは高校卒業以来だからほぼ10年ぶりだ。ドクターの顔をしている世良君は淡々と母の病状を説明する。私のこと、忘れちゃったのかな。それもあり得るか。しっかりしろ、今は母の病状をちゃんと聞かなきゃ。
「説明は以上になりますが、何かご質問などありますか?」
事務的な口調は診察室に入った時から一貫している。こちらから親しげに声をかけるのもおかしいよね。
「えっと、ちょっとまだ頭が整理できてなくて。少し時間頂いてもいいですか?質問まとめておきます」
母の病気についても、私は初耳だった。高校を卒業して以来、実家には帰っていない。ついでに言うと、私は20歳の時に、高坂の両親の戸籍から分籍して自分だけの戸籍にした。両親は反対したけど、関西の大学を選び、正月も帰ってこない私に最終的にはOKを出してくれた。きちんと理由を説明したから。そして、今までの気まずさ隠しながら、両親は大学卒業までの学費と最低限の生活費、多少の財産も贈与してくれた。
そう、私はどうしても妹の莉子と縁を切りたかったのだ。莉子に振り回される人生はもう終わりにする。
わざわざ関西の大学に行ったのに、莉子は私の大学までやってきた。私から何を奪おうとしているんだろう。彼氏の有無でも確認しにきたのか。いたらまたちょっかいを出そうとでも。。。その嫌悪感しかなかった。
その時は、友人の及川愛理が追い返してくれた。
携帯にも何度か莉子から連絡が入っていたけど、出ることはなかった。除籍してからは着信拒否にしてある。母とは最低限の連絡はとっていた。そんな状況だったから、母は病気のこと、私には伝えなかったんだろう。
最初のコメントを投稿しよう!