再会

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「それでは、何かご質問があるようでしたら、こちらまでご連絡ください」 ドクター世良は名刺を差し出す。社会人生活も8年だ。反射的に両手を差し出して受け取った。名刺を名刺入れにしまうときに、私も自分の名刺を出すべきなのかと逡巡してしまう。社会人だもの。名刺交換は普通か。それって病院でも?考えても仕様がないので、私は自分の名刺を差し出した。ドクター世良は左手で受け取ると、デスクの上に置いた。 最近、お医者さんって患者家族にも名刺くれるのかな? 「一応、携帯のご連絡先も教えておいてください。病状が急変した場合の連絡先としてカルテに残しておきます」 私の名刺には会社の直通の電話番号と代表番号しか書いてなかった。そして私は自分の携帯番号を告げた。 「番号、変わってないんだ」 えっ、ふとドクター世良と目があった。忘れたわけではないのか。っていうか、覚えててくれた? 彼の名刺はとてもシンプルで、病院名と病院の代表番号、そして携帯番号。 これ絶対プライベート用だよね。 私は卒1で司法試験に合格し、弁護士になった。一人でも生きていけるように。大学卒業後、東京には戻らず関西のある程度大手の法律事務所で働いていた。会社の代表番号を通して父から母の病気の知らせが入ったのは入社6年目を過ぎたころ。それを受けて私は東京に異動願を出した。 学生の間も、就職してからも、東京には寄り付かなかった。ちゃんと自分一人でタフに生きていける自信がつくまではって。 でも理由はそれだけじゃない。こちらで付き合ってた人がいたから。3年間か。思ったより長かったかな。 でももう別れたから、大丈夫。逆に東京で心機一転。それも正直、大きかった。一応、振られたわけじゃない。私の方から別れを切り出した。だって相手は妻帯者だったから。 しっかりしろ、凜。いろいろしっかりしろ。 私は自分を鼓舞する。 まずは母親の手術のこと。 父から母の病状の説明を病院の先生から聞くかと連絡が入ったのが2週間前。多分、一人で説明を聞きたいだろうからと言われ、それが今日。担当の先生の名前を聞いたとき、あれ?って思った。あの世良君なのかなって。もしかして、莉子と付き合ってるから?とか要らない詮索をしそうになったけど。だとしても、今の私には関係のないことだし。
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