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石黒は例の廊下でお腹を押さえて笑っている。
「石黒君、お疲れさま」
「小山さん……ククッ」
何回か大きく息を吸ったり吐いたりし、目元の涙を拭うとさっぱりした顔つきで小山と向き合った。
「僕の役目はここまでですね」
「ありがとう石黒君。久しぶりに昔に戻ったようで楽しかった」
小山にとって、新人だった初々しい石黒がいた研究所セクションに戻ったような楽しい毎日だった。
「木嶋さんはやると決めたら一直線です。熱量が高い木嶋さんが、熱量の低い北山君をどうやって巻き込んで行くのか……楽しみですね」
美月のまっすぐな情熱に、北山は動かされ、巻き込まれ、やがて大きなマグマとなるのか?
その若いマグマが勢いよく噴火すれば、研究所セクションどころか麒麟COMPANYにも大きく影響する。
「たとえ間違っていても構わん。挑戦する事を面倒くさく思っていては成長せんからのう」
「小山さん、今夜は久しぶりに飲みに行きませんか?中央セクションに戻れば、しばらく忙殺されますから」
「いいのぅ、石黒君!今夜は石黒君お疲れさま会じゃな?」
中央セクション主任石黒進也。
麒麟COMPANYの絶対的エースである。
石黒にかかれば、美月も北山も手のひらで転がされてしまう。
早くからあの円谷社長に付いて、吹っかけられる難題を解決し、麒麟COMPANYを引っ張ってきた若きエースだ。
「しかし、石黒君のような良い男が独身とはの……今夜はその辺を重点的に解明しようか?」
「勘弁して下さい。親からも結婚しろ、結婚しろとうるさくて。僕はまだまだ興味は仕事だけなんですから」
最近石黒は見合いを勧められている。
母親が、次から次に見合い写真を押し付けてくるのだった。
「昨日など、部屋の入口に見合い写真が貼られていました……」
「石黒君を射止めるお嬢さんはおらんのかね。まぁ、今夜じっくり聞くとしようか」
小山の楽しそうな笑い声が廊下に響いた。
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