先手必勝

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「私……」 美月とて全く考えていなかった訳ではない。 北山の人間性を知れば知るほど、北山に何も言えなくなった。 「おや?リタイアするかい?」 中央セクションの仕事は忙しい。 リタイアしたら気持ちはずいぶん楽になるだろう。 「いえ、一度お引き受けした社長のお願い。リタイアなどしません」 「フム、意固地になったのかな?出来ないと自覚するのも大切な事だがね」 「これは……意固地な北山さんと意固地な私の戦いです!意固地同士、何かしら意固地についてわかり会えるかも!!」 まんまと社長に乗せられた美月は、引き続き研究所セクション改革を続行する事になった。 「う、うむ。意固地同士か……頼んだよ美月君」 鼻息荒く社長室を出た美月は、勢いそのままに研究所セクションへ行く。 ちょうど、石黒と北山が言い合っている。 「ストップ!石黒主任は中央セクションに戻って下さい!後は私が引き継ぎます。あ、白衣脱いで下さいね」 唖然とする石黒から白衣を引っ剥がし、バサリと羽織り腕を通す。 美月にはずいぶん大きい白衣だ。 「北山さん!私は石黒主任みたいに有能ではありませんし、平凡も平凡、ボンボコ社員です!ですが、ボコボコなりのやり方で北山さんにリーダーになってもらいますから!」 美月本人は真剣だ。 だが、石黒の笑いのツボには刺さっている。 苦しそうな石黒をドアから出し、眼鏡がズレたまま美月を見つめ続ける北山に対峙した。 「中央セクションは冴子チーフ、滝山さんが出張になりました。私も中央セクションから離れられません。でも、研究所セクションにも通います!意固地ですから!」 「プッ……ハハッ。ハハハ!」 北山は珍しく笑いだした。 身振り手振りで勇ましく力説する美月だが、いかんせんダボダボの白衣が滑稽過ぎた。 「笑っていられるのも今のうちです!私だって恐いですよ〜すっごく恐いですよ〜覚悟して下さいね!」 「石黒さんより手強いな」 そう言いながらも、どこかホッとした顔で腰痛マシーンへ美月を連れて行く。 「忙しい中来てくれたんだ。腰痛マシーンに入って行って下さい」 2人の掛け合いをニコニコと見ていた小山だが、そっと部屋を出て石黒を追いかけた。
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