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林檎の花の季節が来ると、いつも胸騒ぎがして、その胸騒ぎは、七度繰り返し今年ついに的中した。
城之内栄はクーラーボックスを小脇に抱えて、携帯で調べた場所へと足を進める。
「ねぇ、どうして篠上君なの?」
ついてくるなと言う忠告も空しく、後ろから蝶子が追及してくる。
青柳蝶子は大学で世話になっている教授の娘で、研究室でも毎日顔を突き合わせている腐れ縁だ。
蝶子の父親は、植物化学を専門にしていおり、新薬で特許を獲得し、一躍時の人となった。
そんな父親を持つ蝶子は、容姿端麗で、学内でも有名なお嬢様だ。
お陰で、いつも一緒の栄と蝶子は結婚前提だという噂まで流れているが、栄からすれば天地がひっくり返ってもあり得ない話だ。
「何だっていいだろ。お前、帰れよ」
「嫌よ。隠し事はなしって約束したじゃない」
「してねぇよ」
「何よ、心配してるんじゃない!」
余計なお世話だと言い掛けて、栄は少し離れた所に“篠上診療所”の看板を見つけた。
「いくらあんな噂があったからって、篠上君に頼むなんて、どうかしてるわよ?」
「分かってるよ……」
それでも、思い当たる所がここしかなかったのだ。
同級生だった篠上零一とは、特別親しかったわけでもないが、彼は当時から色んな意味で有名だった。
祖父が遺伝子学の分野で名を馳せた著名人でありながら、本人の異様な見た目から彼自身、人体実験に使われていた、なんて噂もあった。
そして、彼本人も如何わしい研究をしているなどと、思春期とはかくも想像力が豊かなものだ。
だが、その噂を否定出来ない程、彼の見た目とその知能の高さは、十七歳と言う枠から逸脱していた。
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