クレマチスの恋は林檎の毒に侵されている

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 築年数が余裕で半世紀を超えていそうな木造建築は、白い塗料が剥げ、建材が所々剥き出しになっている。  入り口に吊るされた休診日の木札が、強く吹いた風にカランと鳴いた。  ダメ元は承知の上、と覚悟を決めて栄は、インターフォンを押す。  休診だからか、人の気配がない。  もう一度ブーッと耳障りな呼び出し音を長めに鳴らしてみると、ドタドタと子供の様な足音が聞こえた。 「はいはい? 本日は休し……ん?」  出て来た男は栄の顔を見るなり、逡巡し、羽虫が羽を震わせるごとく長い睫を瞬かせる。 「城之内? と、青柳?」  相変わらず、小柄で童顔、同級生とは思えない程幼い。  その癖、表情も態度も彼を構成する部品にそぐわない。  あの頃と寸分違わないその姿は、白衣を着ている分、より一層滑稽に見える。 「うわぁ……変わらないのね、篠上君」 「何用だ? 結婚式の招待なら、断る!」 「はっ? ちげぇわ!」 「ちょっと栄! そこだけ否定するのが早すぎるわよ」  次の瞬間、零一がすん、と鼻を鳴らして訝し気に栄を見た。 「死臭。城之内お前、何を持って来た?」 「これは……」  栄は昨日自宅で起こった事を、かいつまんで篠上に話した。  昨日の昼過ぎ、栄の自宅に送り主不明の林檎が段ボールで届いた。  丁度、合鍵を使って在宅中だった蝶子が受け取り、段ボールの口を開けたが、送り主の分かるものはどこにもなかった。  大学にいた栄は、蝶子から変な荷物が届いたと電話を受ける。  その短い時間の間に、栄の愛猫ハナがその箱に潜り込み、そのまま逝ってしまったのだ。 「……ハナの死因が何なのか、どうしても知りたいんだ」 「何故うちに? うちは獣医ではないが?」 「そんな事分かってるわよっ!」 「煩い、青柳。俺は城之内と話している」 「な、なによっ!」 「日本人受けする黒髪と作り物の様な容姿、枝の様な体に、豊満な脂肪の塊ぶら下げても、俺はお前に興味がない」 「あいっかわらず……腹立つっ!」 「城之内、話は聞いてやる。だが、この女が帰るのが条件だ」  篠上の毒舌は、七年経っても健在だった。  栄は蝶子を宥め賺して帰らせ、零一の案内に従って、診療所へと上がり込んだ。
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