【後日談】ケイルの執着

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「……ほんとう? 嘘ついてない?」  ジトッとした疑いのまなざしを向けられ、居心地が悪い。 「ほんとだよ。さっきのオッサンに聞いてもいいぜ」  胸を張って言い切ると、プッと噴き出す音が聞こえた。 「きみって本当に……、偽らないし堂々としてるよね。たしかに、浮気現場が見つかった態度じゃない。……信じるよ」  よかった、と胸をなで下ろす。が、あっというまにケイルの腕に抱きすくめられてしまった。 「きみは僕だけの子だよ」 「ケイル?」 「ジャミル、好きだ。僕から離れないで……」 「ギリシャまで連れてきて、今さらなに言ってるんだよ」  最後の「よ」が、ケイルの唇に吸い込まれてしまう。 「キス以上のことはしない。だから、僕の好きにさせて」 「いいぜ。お前のキスは気持ちいい」 「……もう。ほかの奴にそんなこと言っちゃダメだからね。きみは魅力的だから心配なんだ」  たしなめる男が攻めたのは、頬の肉だった。口の中でも骨に覆われていない頼りないそこを、舌先でつつかれる。 「ぅ、あっ」  そこを弄られると、物足りないような、もっとしてほしいような変な気持ちになる。だから、口腔内のケイルに舌を寄せて、ここだと場所を示してみる。  教えたつもりなのに、言葉を発せないものだから、ケイルが勘違いして、また舌と舌の応酬がはじまった。  舌を絡め合っていると、余裕をなくしているこの男が俺を離したくないのが伝わってくる。  普段は飄々としているのに、俺にだけ見せる執着に、胸が熱くなる。  俺は愛されているんだ。 「ジャミル、ジャミル……っ」  名前を呼ぶ声が切羽詰まって、キュウッと心臓が痛くなる。 「ケイル。好きだ」  普段は言わないけれど、俺だってこいつが好きだ。故郷を離れてギリシャまで来たのは、こいつがいるからだ。  わき上がる熱を、体で表したくて、俺もケイルの口腔内を探る。  歯と歯茎のあいだを沿わせたり、奥の歯の付け根を舐めてやると、身体がビクッと震えていた。――効果ありだ。  夢中になっていると、口の端から俺たちの唾液が流れ落ちていくのが分かった。顎から首筋、そしてワンピース状になった衣服へと、液体が伝ってゆく。 「はぁっ。ケイル、もっと……」  もう酸欠で、顔が真っ赤だ。  それなのに、まるで雲の上にいるような浮遊感に見舞われて、気付けばそう呟いていた。  ケイルの息も上がっている。唇を離すと、おもむろに首元に吸い付いてきた。 「イッ」  肌をきつく吸われ、痛みに顔を顰めると、「さ、客間に戻ろうか」とさわやかな笑顔で言われた。 「え。客間って?」  ハッとなって鏡を見ると、首筋に赤い花のような痣が残っていた。 「キスマークを付けたジャミルを見せたら、さっきの客も僕の気持ちを汲んでくれるよ」  にっこりと笑った顔には、計画を遂行しきった清々しさすら感じられた。  この男には敵わない。俺はこれからも、こいつの掌の上で転がされるんだろう。 【了】
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