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知ってるでしょ?花には花言葉っていうもんがあるんだ。宗教とかおまじないとかそういうものが由来らしいんだけど、藤子さんはさっきのスイートピーのように、花を差し出してその花言葉だけで会話をする。…なぜだかはまだ誰もわからない。花は彼女の大切な会話のツールなのだ。だからもちろん、彼女の仕事場はまるで花園だ。いや、もはやジャングルだ。
彼女は一流のイラストレーターだ、画材や図鑑、パソコンなどで部屋がぐちゃぐちゃならまだわかるが、それに加え、いやそれよりもはるかにおびただしい植物が部屋に生きている。もちろん、中に入るとむせかえりそうなにおいが充満している。
話もまともにできない、ストレスになる彼女の家、確かに彼女との仕事にうんざりするのも無理はないと思う。
ところが僕は不思議なことに、そんな彼女に不快感はこれっぽちもない。最初に驚きはしたものの、彼女は実に可愛く微笑むし、寡黙であるほど目や仕草がものをいうこともあってそれがたまらなく魅力的だし、花や葉っぱに囲まれた彼女はとてつもなく綺麗だ。
いつか、大きな口で爽やかに笑うところを見たい、いつかきちんと声で名前を呼んでほしい、そう思えば思うほど、彼女のために花言葉辞典を開くのが幸せに思えるのだ。
僕は多分、恋に落ちている。
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