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「ごめんなさいね、心配かけて。ほんとにただの骨折なのに…あ、この桃ありがとうございます、美味しいわ」
「心臓止まるかと思ったんだからねー。あ、でも本当においしい」
やっぱり、彼女がこんな風に気さくに話しているところはほとんど見ないから、かなり違和感を感じる。やはり、幼少のころからずっと一緒にいる柿本さんが相手だからだろう。僕にも、こんな表情を見せてほしい。こんな楽しそうな声色を……。
「あらあ、梨木さんだわ」
柿本さんが僕に気が付くと、藤子さんはしまったというように口を押え、少し見舞いの花束に目をやった。でもさすがにそれは会話のツールにしてはいけないと思いなおしたのか、震える手をどけ、僕のほうを見た。
「なしき、さん」
「はい、藤子さん」
「ふーん、私が気を失っている間に何があったのかしら」
「ちょっと柿本さんっ」
お茶目に笑う柿本さんと、ほおを膨らます藤子さん。いつまでも見ていられる、幸せな光景。僕はそれをつぶしかねないことをこれからする。
「藤子さん――――――話があります。ここじゃなんですから…中庭に行きませんか」
彼女は花も持っていない。多分、筆記用具も。お互い声と目と心で、ただ話すことに集中したい。
「藤子さん…」
彼女は少し顔をしかめて、それから僕に向かって頷いた。
「行きましょう」
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