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「行こう」
そう言う田村の声に私も、行こう、と返すのがこの所における日課のようであった。
最近の私は授業が終わるのを楽しみにしている節がある。それは田村も同じなのか、授業が終わると荷物があっという間に纏められているのであった。
「ああ、私もリエ嬢と縁談と言う話が降って来ないだろうか」
田村はそう言いながら天を仰ぎ、両手の平を上へ向ける。それはまるで雨でも降り始めたかのような姿であった。
「そう上手い話が簡単に転がっている訳なかろう」
「山本には転がっていたではないか」
「まあ、日頃の行いが良いからであろうな」
「馬鹿な……」
冗談で言ったのだが、田村は少々本気にしたようで項垂れている。私はその田村の背にぽんと手を乗せた。
「これから頑張れば、もしかしたら良い話が降ってくるやもしれんぞ?」
「……そうだな」
そう言って田村は大きく息をついた。
どうやら私の縁談相手が、まさかのハツさんであったために不貞腐れているようだ。
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