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歩幅を合わせハツさんの隣を歩き、時折その愛しい顔を見下ろす。何の憂慮もなく隣に立てる事がこのように嬉しいものだと知った喜びに心が震えていた。
そうやって、しばしハツさんを見ていたからだろうか。どことなく様子のおかしい所に気付いてしまった。何が、と問われればそれにきちんと答えることは出来ないのだが……。
だが普段と違い、瞳がゆらりと揺れ、口を開き何か言おうとしては閉ざす、そんな様子に違和感を覚えた。
「ハツさん?」
なんでもない――と言われれば、それ以上問い質すことはしないでおこうと思ったのだが、ハツさんは歩を止めて私の目を見た。
「あの、……あの、」
目が合ったかと思えばそれは一瞬で、次には下を向き可憐な唇を忙しなく動かしていた。だが出て来る言葉は言葉であって言葉でない。
「ええと、あ、……」
「どうしましたか? 何か言い難い事ですか?」
「わ、わたくし、」
ハツさんは小さな手を胸の前できゅっと握り込むと、その白い手は徐々にほんのり赤く染まっていく。
何をそんなに考えているのか分からないが、大丈夫だと言うようにその華奢な肩を引き寄せようとしたが、ハツさんの身体がピクリと震えるのを見て、すんでの所で手を止め引っ込めた。
このような往来で嫌だったかもしれない。もしかしたら触れられるのがそもそも嫌なのかもしれない。
「ハツさん、そこの喫茶店で少し休みましょうか?」
少し先にある『喫茶パール』を指差すと、ハツさんもそちらを見てから口を開く。
「あの、良ければ八幡様の境内でもよろしいですか?」
「ええ、構いませんよ」
喫茶店はお嫌いなのかもしれない。
だがこうやってハツさんの事を一つずつ知っていけるのは純粋に嬉しい。
そして私たちは言葉少なに八幡様の境内を目指した。
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