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縁日の様子とは打って変わり、澄んだ空気に厳かな風が抜けていく参道では、私の下駄の音だけがカツン、カツンと響いていた。
境内の端にある池のほとりには小さな休憩処があり、私たちはそこに腰を下ろす。
池では鯉がゆらりと遊んでおり、頭上には御神木の楠がさわさわと枝葉を踊らせている。
ハツさんが口を開くまで、私はしばし薫風を感じていた。
「山本様、」
「はい」
ハツさんはすうと息を吸い込むと、一気に吐き出すように言う。
「わたくし結婚出来ません」
「え?」
――何故だ、どうしてだ……
脳が考える事を拒否しようとしていた。
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